「新会社法」
   
作成日:10/19/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


いよいよ来年5月以降施行 会社制度が変われば実務も変わる
「新会社法」
 ―経理の仕事にはこんな影響があります




 「会社法」が本年6月29日の参議院本会議で可決され、成立しました。施行は来年4月以降となり、具体的な日程はまだ決まっていませんが、来年5月が有力のようです。いずれにしても来年には「会社法」が施行されますので、経理担当者のみなさんも今から、その内容について勉強しておく必要があると思います。

 「会社法」について、経理の仕事への影響という観点から解説していきましょう。



1 有限会社がなくなる

 みなさんの中には有限会社にお勤めの方も多いのではないでしょうか。新しい会社法の施行後は、この有限会社が法律上なくなってしまいます。といっても慌てる必要はありませんが、対応としては二つの方法があります。

 一つは特例有限会社といって、有限会社の名称をそのまま使い続けることが認められていますので、これまでどおりに有限会社の名称を継続するという方法です。名称は同じままでも中身は株式会社に変わることになりますが、有限会社の特徴である「役員の任期がないこと」および「決算公告をする必要がないこと」を継続適用できます。

 もう一つの方法は、株式会社に名称を変更することです。会社法施行後は、商号変更と同じような感覚で、簡単に有限会社から株式会社に名称を変更することができるようになります。ただし、株式会社設立登記の登記費用はかかります。また、先述した有限会社の二つの特徴は適用できなくなり、名実ともに株式会社になります。

 このほかに、もう一つ検討すべきことがあります。それは、含み益(簿価よりも時価が高い場合)のある不動産等があり、かつ税務上の繰越欠損金(当期に税務上の赤字が出ても、その後7年間の間に黒字になれば、その損益を相殺して税負担を軽くすることができる制度)がある会社の場合です。通常、含み益は売却しなければ計上することはできませんが、有限会社を株式会社に組織変更する場合には、不動産を時価評価して含み益を計上することが認められています。含み益を計上すれば当然税金がかかるのですが、繰越欠損金があれば、これを控除することができ、税金がかかりません。使い切れそうもない多くの繰越欠損金がある会社では、会社法が施行される前にこの方法を考えてみる必要があるでしょう。会社法施行後はこの規定を適用することができなくなりますから、今が最後のチャンスです。




2 最低資本金制度がなくなる

 現在の商法では、株式会社は1000万円、有限会社は300万円という最低資本金制度が設けられていますが、会社法では、これが撤廃されます。資本金1円でも会社を設立することができるようになり、決められた期限までに増資しないといけないというような規制もなくなるのです。

 現在でも、資本金1円で会社が設立できる“1円会社”(これを確認会社といいます)がありますが、この場合には会社設立から5年以内に最低資本金まで増資しないといけないことになっています。確認会社では会社法施行後には定款を変更し「5年以内に最低資本金まで増資する」という項目を削除することにより、増資を行なわないままで事業を継続することができます。

 一方、最低資本金制が撤廃されるということは、減資するのも自由になるということを意味します。たとえば株式会社であれば、資本金を1000万円以下に減資することができるようになります。

 減資が効果を発揮するのは、欠損金がある場合です。貸借対照表の資本の部の中にマイナスがあるのは、財務上、あまり見栄えがよくありませんが、減資することで欠損金を消すことができるのです。こうした活用も、今後は多くなっていくのではないでしょうか。




3 類似商号禁止規定が廃止される

 前述した最低資本金制度が撤廃されることも、会社設立が簡単になる理由の一つですが、そのほかにも、類似商号禁止の規定が廃止されるということがあります。

 類似商号禁止の規定とは、同一登記所管内(同一市区町村内)で同一の営業目的で、他の会社と類似する商号を登記することはできないという規定のことです。

 今までは、会社設立や本店移転、商号や目的の変更をする際に、類似商号を調べる必要がありましたが、今後はその必要がなくなります。ネット社会の発展や社会のインフラが整備されてきたことに伴ない、企業活動が広域化した現在では、同一市区町村内だけで類似商号をチェックしても、あまり意味がなくなったということでしょう。

 さらに、これまでは会社設立時に資本金の「払込金保管証明書」を添付する必要がありましたが、これが廃止され、残高証明書を添付すればよくなります。今までは、登記が終わるまで資本金を動かすことができませんでしたが、今後は残高証明書を取得した後は、その資本金を自由に使うことができるわけです。

 ただし、発起人以外の株主を募って会社を作る「募集設立」の場合には、従来どおり払込金保管証明書が必要です。また保管証明の廃止は、増資を行なう場合にも適用されます。




4 LLC、LLPができる

 LLC(合同会社)およびLLP(有限責任事業組合)という新しい組織形態ができます。LLPに関しては、会社法とは別の法律で規定され、すでに本年8月1日から施行されており、設立が可能になっています。

 この二つは非常に似た組織といえます。共通点は、出資者(社員といいます)が全員有限責任であるということ。そして運営は定款自治による「組合的規律」が適用されるということです。この「組合的規律」とは、全員一致が原則で、出資額に関係なく、定款で利益配分割合を決められるなど、自由度が高いことを意味します。

 ただし、税務上の扱いには大きな違いがあります。LLCはあくまで会社ですので、株式会社と同じように法人課税になる見込みです。しかし、LLPは組合なので、構成員課税(パススルー課税)となっているのです。構成員課税とは、LLPに課税されるのではなく、利益配分割合に応じた損益が、出資者である組合員(法人または個人)の所得に加減され、課税されるものです。したがってLLPで赤字が出た場合、組合員の法人税、所得税を減らす効果があります。この点は、経理ウーマンが必ず把握しておきたいポイントです。




5 配当がいつでもできる

 会社法施行後は、株主配当をいつでも、年何回でもできるようになります。

 これまでは、配当は基本的に年1回で、中間配当をすることも可能とされていましたが、今後はそうした制限がなくなります。また配当は金銭に限らず、現物配当もできるようになります。ただし、純資産額300万円未満の会社は、配当をすることができません。




6 資本金、準備金、剰余金の増減が自由になる

 資本金、準備金(資本準備金・利益準備金)、剰余金(別途積立金等)間のお金の増減が、株主総会の決議によって、いつでも行なうことができるようになります。ただし、資本金を減らす場合には、原則として特別決議(過半数の株主が出席する株主総会で、3分の2以上の賛成を必要とする決議のこと)および債権者保護手続きが必要です。

 資本金や準備金、剰余金など資本の部をどのように区分けしておけばよいのか、これを機に見直してみてはいかがでしょうか。




7 利益処分がなくなる

 ポイント6で解説したように、配当や資本の部の振替がいつでもできるようになると、取締役が年1回利益処分案を作成し、それについて株主総会で承認を得るという利益処分には、あまり意味がなくなってきます。

 そこで会社法では、利益処分(案)を廃止しました。配当金や役員賞与、準備金や各種積立金の積立は、株主総会において個別の議案として決議されることになります。したがって、会計上の仕訳の仕方なども変わってきますが、具体的な方法はまだ明らかになっていません。役員賞与などは従業員への賞与と同様に、損益計算書に入るようになるのではないかと思いますが、税務上は従来と変わらず損金不算入となります。




8 「株主資本等変動計算書」を作る

 前述のように利益処分(案)がなくなる代わりに、今後は「株主資本等変動計算書」という新しい計算書類を作ることになります。

 これは、年間を通じた剰余金の分配や、資本の部の変動を記載する計算書類です。今回、書式を載せることはできませんが、決算書の一つとして、経理担当者が書類作成をする必要が出てくるでしょう。




9 会計参与が新設される

 会社の新たな役員として「会計参与」が新設されることになりました。会計参与の設置は会社の任意ですが、会計参与が置かれた場合には、みなさんの業務にも大いに影響すると思われます。

 会計参与になれるのは、公認会計士、税理士、監査法人、税理士法人の4種類で、いわゆる会計のプロのみです。その役割はさまざまですが、主に取締役等と共同して計算書類(決算書等)を作成すること、株主総会においてこれを説明すること、さらに会社とは別に計算書類を保管し、株主や債権者からその閲覧を要請された場合は、これを開示する必要があることなどが挙げられます。

 会計参与は、株主代表訴訟の対象にもなりますから、かなり重い責任を負っている立場といえますが、それだけに中小企業にとっては、自社の会計の健全性を保証する存在になります。とくに金融機関等に対して健全性をアピールすることに、その有用性が求められていくのではないでしょうか。会計参与が設置された会社では、経理担当者のみなさんにも当然、より厳しい会計処理が求められることになるでしょう。




10 中小企業の会計指針ができた

 日本税理士会連合会ほか3団体の共同作業により「中小企業の会計に関する指針」が作成され、本年8月に公表されました。これは、中小企業が準拠すべき会計処理に関する指針で、新会社法で導入されることになった会計参与が、中小企業の会計処理をするにあたって、よりどころにするために作成されたものです。

 この指針は、上場企業などが準拠すべき会計基準よりは緩やかな取扱いにはなっていますが、今まで中小企業が行なってきた会計(主に税法を意識したもの)に比べると、かなりレベルの高い内容になっています。具体的な内容については、いずれ本誌でも取り上げると思いますが、みなさんも早めに目を通しておいてはいかがでしょうか。日本税理士連合会などのホームページから、ダウンロードすることができます。




11 決算公告をしなければならない

 すべての株式会社には、決算公告をする義務があります。ただし現在、非上場会社のほとんどはこれを守っておらず、いわゆるザル法となっています。

 会社法施行後は、この公告義務が現在よりも厳しくなる可能性があります。ただし中小企業の場合は、公告するのは貸借対照表のみでよいことになっています。公告の方法には、官報や日刊新聞紙への掲載、自社ホームページやその他インターネット上に掲載する電子公告があります。

 会社法施行後に備え、公告の方法の検討をしたり、公告義務がどのように取り扱われていくかについて注視する必要があるといえるでしょう。




12 株券は発行しないのが原則

 今までは株券を発行するのが原則でしたが、会社法施行後は、株券を発行しないことが原則になります。つまり、定款に定めがある場合にのみ、株券を発行することができるということです。また、株式の譲渡制限を設けている会社は、株券発行会社であっても株主から請求があるまでは、株券を発行しなくてもよいことになっています。

 平成21年6月までに、株券ペーパーレス化になることが決まっているので、それを見越した取扱いになったというわけです。なお、社債などの債券は株券ではありませんので、現状どおりの扱いになります。

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 以上、経理の仕事に関係する新会社法の解説をしてきましたが、詳細が決まっていない点も少なくありません。経理担当者のみなさんは、会社法が施行されるまでの間に、いろいろな情報を収集したり、他社がどのような対応を取っているのかなどを注意深く観察することをお勧めします。

〔月刊 経理WOMAN〕