「自己株式」の基本知識がみるみる身に付くQ&A
   
作成日:01/24/2006
提供元:月刊 経理WOMAN
  


「自己株式」の基本知識がみるみる身に付くQ&A




 最近、「自己株式」という言葉を新聞や雑誌などで目にする機会が増えましたが、経理担当者のみなさんはその意味を知っていますか? 言葉の意味だけでなく、活用法や基本的な知識は、会社の経理を預かる担当者として必須といえます。

 そこでここでは、自己株式についての疑問を解消していきましょう。



自己株式とは何ですか?


 
 自己株式とは、自社で保有している自社株式を指します。たとえば、A社が発行した株式をA社自身が取得して、保有しているとします。そのような株式が自己株式で、通称「金庫株」とも呼ばれています。

 もともと商法では、自己株式を取得することを原則として禁止していました。なぜなら、経営者の支配権の維持(自己株式を取得することによって株主の議決権を奪い、会社への支配を強めることができる)や、インサイダー取引(会社の内部者情報を知ることができる立場にある会社役員等が、その立場を利用して重要な内部情報が公表される前に会社の株を売買すること)、株価操縦に悪用される恐れがあるなど、何かと弊害があると考えられていたからです。

 しかし平成13年の商法改正によって、自己株式の取得は原則として自由となりました。

 この改正の理由としては、先に挙げたような弊害が自己株式を取得するにあたって一定のルールを整備することで防げると判断されたこと、また、自己株式を活用したいと望む産業界から取得を自由にして欲しいという要望が寄せられていたことなどが挙げられます。




会社が自己株式を取得するにはどうすればよいのですか?


 
 自己株式を取得するには、定時株主総会で自己株式の取得に関する議案を提出し、株主の承認を得なければならないと商法で定められています。これは株主の保護を図るためです。

 定時株主総会に提出する議案には、自己株式の取得価額の総額(トータルでいくらまで自己株式を取得できるのかという枠)などを示して承認を取ることになります。また、その総額は配当可能利益(配当は一定の限度額の範囲でしかできないことになっており、その限度額の上限のこと)の範囲内で定める必要があります。

 自己株式を取得する財源は会社の財産ですから、配当の限度額を超えた自己株式を取得することは許されないのです。これは、債権者の保護を図るための措置です。

 また、自己株式を取得したために、期末日の配当可能利益がマイナスとなり、結果的に配当できなくなってしまうことも認められません。自己株式を取得するときは、その営業年度の業績も勘案した上で取得しなければならないのです。

 自己株式の取得には、株主や債権者に不利益を与える可能性があるため、前述のような手続きが必要となるというわけです。もし、定められた手続きを怠った場合、損害賠償請求を提起されるなど、大きなトラブルに発展する恐れもあるので注意してください。

 規定の手続きを踏んだ後、実際にいつ自己株式を取得するかは、取締役の判断で決定されます。つまり、株主の承認を経たら、実際の取得は取締役が行なう仕組みになっているのです。自己株式の取得状況などは、株主総会の招集通知に添付する営業報告書への記載によって株主に報告します。




自己株式を取得し、それを保有することのメリットは何ですか? また、その活用法を教えてください。


 
 自己株式の取得・保有には、いくつかのメリットがあります。以下に挙げていきましょう。

●財務指標の改善効果

 会社の当期純利益を、会社が発行する株式総数(発行済株式総数といいます)で割ると、「1株当たり当期純利益」という財務指標が算出できます。この1株当たり当期純利益の数値が高い会社ほど、株価も高くなります。

 自己株式を取得して、株式を消却すると発行済株式総数が減少します。これと併せて当期純利益を前期と同じだけ計上することができれば、1株当たり当期純利益が増加することになります。つまり株価の向上が期待できるわけです。

 最近は、資本を効率的に使うことを重視した経営をしている会社が多いので、経営者にとってこの効果は非常に魅力的です。

 さらに、自己株式の取得によって配当負担を減らしたりなど、会社の財務戦略としても活用できます。

●ストックオプションへの活用

 近年、ストックオプション制度を導入する会社が増えています。

 ストックオプションとは、役員や従業員に対して、報酬や給与の代わりに会社の新株予約権を付与する制度です。将来、会社の業績が向上し株価が上昇したときに新株予約権を行使すれば、役員・従業員は株価の上がった株式を取得できるので、その分の利益が得られるというわけです。そのためストックオプションには、役員や従業員のやる気を引き出す効果があります。

 自己株式を保有しておくと、役員や従業員からストックオプションの権利行使があったときに、わざわざ新株の発行をする必要はなく、自己株式を交付すれば済みます。つまり、新株発行で対応するよりも費用が節減できるというわけです。

●合併や会社分割などの企業組織再編への活用

 たとえば、A社がB社を吸収合併するとします。この場合、存続会社であるA社は、消滅会社であるB社の株主に対してA社株式を交付することになります。ですからB社の株主はB社株式を失う代わりに、原則として同じ価値のA社株式を取得することになるわけです。

 このとき、A社がB社の株主にA社株式を交付する方法としては、新株発行による方法と自己株式を交付する方法があります。A社が自己株式を保有していれば、それを交付した方が新株発行に伴なう面倒な手続きや費用を節減できます。

 また、合併や会社分割などの企業組織再編を機動的に行なうことができる点にもメリットがあります。

●中小企業での相続税対策

 株式を公開していない中小企業が自己株式を取得した場合、原則として、株式を売却した株主に配当所得が発生します。

 しかし平成16年度税制改正で、非上場会社が株式の相続を受けた人から自己株式を取得する場合で一定の要件を満たすものは、配当所得課税の対象外とされ、譲渡益課税のみが課されることとなりました。この改正によって税額が大幅に圧縮され、以前より手元にお金が残るようになったのです。

 中小企業にとって、これは相続税の支払い資金を捻出する手段として利用できます。不動産や有価証券をたくさん相続しても、現金がなければ相続税を支払うことができないという問題が中小企業によく見受けられますが、自己株式を取得することによって、有価証券を一部現金化し、それを相続税の支払い資金に当てることができるのです。




自己株式を取得することによるデメリットはありますか?


 
 自己株式の特性をきちんと理解した上で活用すれば大きなデメリットはとくにないと思われますが、強いて挙げれば、次の点に注意が必要です。

 自己株式は、株主にお金を払って取得します。ですから、自己株式の取得の際には会社の資金繰りをよく検討しておかないと、後で資金化したいと思ったときに困ることになる恐れがあります。というのも、取得した自己株式は通常の資産のようには譲渡や売却ができないからです。

 商法では、自己株式を処分するときには新株発行とほぼ同じ手続きを踏むことを要求しています。ですから、取締役会の決議や公告など、さまざまな手続きを行なう必要があり、処分するまでには手間も費用もかかるのです。

 したがって、お金に余裕のない会社は将来の資金繰りなどを把握した上で、慎重に自己株式の取得を検討することが必要です。




経理担当者が自己株式の会計処理で知っておくべきことは?


 
 自己株式の取得、処分などについては、企業会計基準委員会が平成14年2月に公表した「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準」に規定があります。この会計基準のポイントは、自己株式の取得を・資産の取得?としてではなく、・資本の払戻し?としてとらえている点です。

 たとえば、自己株式を300万円で取得したとしましょう。この場合の仕訳は、次のようになります。

 図 貸借対照表への記載方法


 (借方)自己株式  300万円
/(貸方)現預金   300万円

 借方の自己株式は資産の計上ではなく、資本のマイナスなのです。すでに発行済みの株式を自社で取得するわけですから、株式の発行を取り消したと考えれば理解しやすいのではないでしょうか。

 また、株式を発行したときには貸借対照表の資本の部の増加になりますが、自己株式を取得したときには逆に資本の部のマイナスとなります。したがって、貸借対照表の右側、資本の部の末尾に上の図のように表示します。

◇     ◇

 以上のように、自己株式はうまく活用すれば会社にとって非常に大きなメリットがあります。ただし、通常の資産の取得とは異なる会計処理となりますので、正しい処理の知識が必要です。

 いずれにしても、その特性をよく理解した上での活用が求められるでしょう。

〔月刊 経理WOMAN〕