税務署の処分に「不服」があるときの対処法
   
作成日:09/29/2004
提供元:月刊 経理WOMAN
  


泣き寝入りする前に読んでおこう
税務署の処分に「不服」があるときの対処法




 税務署に申告した所得や税額が税務署長が調査したものと異なるとき、また、申告しなかったときには、税務署長は調査した結果に基づき、更正や決定の処分を行いますが、その処分に不服があれば、納税者は税務署に申し立てできるようになっています。

 そこでここでは、税務署の処分に不服があるときの対処法についてアドバイスします。


■不服申立ってどんな場合にできるの?

 税務調査において、「この売上は○○期の利益として計上すべきです」「いや、××期の利益です」、「この費用は税務上の損金としては認められない」「いいえ、当然認められるべきものです」といったように、会社側と税務署側の意見が対立することはよくあります。

 このようにお互いの意見が食い違う場合、最終的に税務署は「更正処分(税務署が計算した税額を通知)」を行なってきますが、その処分に納得がいかないときは、税務署を相手に「不服」を申し立てることができます。

 しかし、「よし、税務署と闘うぞ!」と意気込んだのはよいものの、フタを開けてみたら、それが不服申立のできない処分だったということもありますから、まず法律上どのような処分について不服申立ができるのか、見ていくことにしましょう。

 「不服申立」とは、税務署の処分に対して会社(納税者)がその取消しを求めることができる行政上の手続きをいい、税法全般について定めた法律(「国税通則法」といいます)において、不服申立の対象とされるのは、「国税に関する法律に基づく処分」となります。簡単にいえば次のとおりです。

1)税務署長がした処分
2)国税局長がした処分
3)国税庁長官がした処分
4)税関長がした処分
5)国税庁、国税局、税務署及び税関以外の行政機関の長、またはその職員がした処分

 この中でもっとも一般的なものは、1)の「税務署長がした処分」です。

 さて、ここでいう「処分」の言葉の意味ですが、具体的にいえば、「更正、決定、再更正、賦課決定、滞納処分、税法上の各種申請に対する拒否、青色申告の承認申請の取消し」といった内容です。

 つまり、不服申立の対象となる処分は、「不服申立人の権利や利益を侵害するもの」ですから、納税者にとって利益となる処分、たとえば、「納付すべき税額を減額する更正」、「還付金に相当する税額を増額する更正」等については、その取消しを求める法律上の利益がないため、不服申立をできないということになります。


■不服申立の手順及び費用について

 次に、税務署から処分を受けた場合に、会社が取ることができる不服申立の手段についてお話していきましょう。

 「税務署を相手に裁判を起こす」というとみなさんも身構えてしまうと思いますが、これはあくまで最終的な手段で、現実には裁判を起こすよりも、実際に処分を行なった税務署長等に直接不服を申し立てる「異議申立」と、税務署や国税局などから分離されて国税に関する処分の審理を行なう国税不服審判所に対して不服を申し立てる「審査請求」が一般的です。

「異議申立」と「審査請求」についてもう少し詳しく説明しておきましょう。

1)異議申立

 税務署が行なった更正処分等に対して納得がいかないときには、処分を行なった税務署長等に対して不服を申し立てることができます。これを「異議申立」といい、異議申立は、原則としてその不服の対象となる処分をした行政庁(原処分庁といいます)に対して行ないます。

 会社(納税者)から異議申立書(税務署でもらうことができます)を受取った税務署長等は、その処分が正しかったかどうかを調査して、その結果を「異議決定書」という書面で納税者に通知します。

2)審査請求

 この異議決定の内容に、なお不服がある場合には、さらに国税不服審判所長に不服を申し立てることができます。これを「審査請求」といい、会社(納税者)から審査請求書(国税不服審判所でもらうか、国税不服審判所ホームページ「提出書類一覧」からダウンロードできます)を受け取った国税不服審判所長は、その処分が正しかったかどうかを調査・審理して、その結果を「裁決書」という書面で納税者に通知します。

 ところで、法人の青色申告書についての更正処分などの場合には、税務署長等に対する異議申立をせずに、直接、国税不服審判所長に審査請求をすることができます。ですから、早く決着をつけたいといったときには、この制度を利用する方法もあります。

 異議申立や審査請求には、費用は一切かかりません。また、異議申立書(提出用1通)や審査請求書(正・副2通)を提出する際は、直接窓口に持って行く方法と、郵送で提出する方法があります。郵送の場合は、普通郵便よりも「簡易書留」や「配達証明」などで、送付や受領の事実とその日付が分かるようにしておいた方がよいでしょう。このとき、自分用の「控」と「切手を貼った返信用封筒」を同封することも忘れないでください。


■訴訟手続きの手順と費用について

 国税不服審判所における裁決に対して、なお不服がある場合には地方裁判所に対して訴えることができます。

 よく「直接裁判所に訴えることはできませんか?」という相談を受けるのですが、残念ながら現在の法律では、原則それはできないことになっています。これを「不服申立前置主義」といい、裁判所に行く前にまず、処分を行なった税務署長や国税不服審判所長をとおさなければならないという制度になっているのです。

 裁判を起こす際には、税務署や国税不服審判所に対する不服申立の場合と違い、費用(実費)が必要になってきます。「印紙」と「予納郵券(郵便切手)」がその実費ですが、印紙は訴状に貼り、予納郵券は裁判所が郵便物を送る際に必要となるものです。

 その他、裁判となると、訴訟手続きであるとか専門的な税法の知識が必要になってきますから、通常は法律事務所に依頼をすることになるでしょう。その際には弁護士費用も必要になります。


■不服申立を行う際に注意すべき点

 不服申立を行なう際に、もっとも気を付けなければならないのが、「期間の制限」です。

 なぜかというと、異議申立は「処分の通知を受けた日の翌日から2ヵ月以内」に異議申立書を提出する、審査請求は「異議決定書の謄本の送達を受けた日の翌日から1ヵ月以内」に審査請求書を提出する、といったように、非常に厳しい期間の制限があるからです。

 なお、先述したように、国税不服審判所長の判断になお不服がある場合には、裁判所に訴えを提起することになりますが、この訴えの期限は、「裁決があったことを知った日から3ヵ月以内」です。

 この制限を守らないと、納税者は原則的に救済されなくなってしまいます。忙しい経営者は、ついこの期間制限を忘れて申立できる権利を失ってしまうことが少なくありません。不服申立をした場合には、会社を守るためにも、経理担当者のみなさんが日付と期限に気を配るようにできるとよいでしょう。


■不服申立を行う際に検討しなければならないこと

1)何を目標にするかを明確にする

 不服申立に関する一般的な流れと注意点についてお話してきましたが、会社にとって一番気になるのは、「どうしたらこちらの主張を認めてもらえるか」ということではないでしょうか。忙しい時間の合間をぬって税務署相手に闘いを挑んだのに、結果が「棄却(納税者のいい分を認めないということ)」では力も抜けてしまいます。

 そこで、ここでは「会社側の主張を認めてもらうためのテクニック」を紹介しましょう。

 税務署から更正通知が送られてきたときに、「不服申立をして、何としてでもすべて取消しにしてもらおう」と意気込む経営者が少なくありません。

 しかし、税務署の処分はすべて間違っていますか? 会社のいい分はすべて正しいですか? 申し立てる前に、まずこの点を冷静に考えてください。

 そして、「税務署の処分がすべて間違っている」と判断できた場合のみ、「全部取消し」を主張しましょう。もし、「この点だけは税務署のいい分が正しい」と判断した場合は、「一部取消し」を主張するようにしてください。

 こうすることによって、不服申立の目標、すなわち焦点が見えてきます。税法の条文は膨大でかつ複雑にできていますから、「あれもこれも」と欲張ると主張の焦点がぼけてしまい、せっかく認めてもらえる部分があるにもかかわらず、その点に集中できずに全部棄却されてしまうといったケースも少なくありません。会社経営と同様に、不服申立についても「選択と集中」が大事なのです。

 たとえば、寄附金・交際費・土地の譲渡損失など複数項目にわたって更正処分をされた場合に、「寄附金は税務署のいうとおり。でも、交際費課税についての処分は絶対おかしい。土地の譲渡損失も一部については税務署が間違っている」と判断したら、それに関する部分の法令と通達をよく読み、次のようにいい分を組み立てていくとよいと思います。

・会社はこういう取引を行なってきた
・その取引については、法令・通達上の規定はこのようになっている
・法令・通達にあてはめた場合、会社の申告内容は法令・通達の規定どおりになされている
・したがって、税務署の更正処分は間違っている

 このときに気を付けなければならないのは、「感情的にならず、事実と法律関係の主張を中心に行なう」ということです。

 ところで、税務署と争って更正処分を取り消させることができるかどうかは、もちろん、個々の事案によっても違いますし、また、納税者にどれだけ税法の知識があるかで決まってくることですから一概にはいえませんが、参考になるデータがあります。

 不服申立の状況を見ると、税務署長等に対する異議申立についてはここ数年間、取消割合、すなわち処分が取り消され、納税者のいい分が認められる率が年を追う毎に上がっていることが分かります。

 また、国税不服審判所長に対する審査請求でも概ね14%~15%の割合で納税者のいい分が何かしら認められています。

2)税金は先に支払っておく

 経営者の中には、「税務署の処分に納得できないのに、どうして税金を払わなくてはならないんだ」「争って勝てば全部返ってくるんだから払う必要はない」という人がいます。でも、よく考えてください。万が一、会社の主張が認められなかった場合に、いくら税金が必要になるかご存知ですか?

 税務署の更正処分は、その処分がなされた時点で、一応正しい、すなわち適法な処分であるということになっています。ですから、納期限を過ぎても納められていない税金については「未納税金」として延滞税の対象となってきます。この延滞税は原則として、その法定納期限の翌日から起算して、その国税を完納する日までの期間の日数に応じて、未納税金の額に年14.6%の割合を乗じて計算した額が掛かります。ただし、納期限までの期間、または納期限の翌日から起算して2ヵ月を経過する日までの期間については、7.3%(特例があります)となります。

 ですから、会社の主張に自信があるのであれば、国への預金のつもりで、まずは全額払っておくことをお勧めします。最悪の場合のことを考えて払っておけば、申立が認められて取消しになったときに「還付加算金」が付いて返ってきます。

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 「税務署の更正処分に不服を申し立てるなんて…」と不安を感じる経営者は少なくありません。これは、「税務署と争っても勝てないから」、「次の調査のときにもっと厳しく調査されるかもしれないから」といった理由からのようです。

 しかし、税務署のいいなりになってしまうから、その会社は税務署のお得意様になってしまうのです。いうべきことはいう、是は是、非は非という態度を一貫して持ち続けている会社には、税務署も無理難題を押し付けるようなことはしづらくなります。

 ぜひ、法律で定められた権利を使って、会社を守るようにしてください。

〔月刊 経理WOMAN〕