「法定調書」の作成&提出はこうしてすすめる
   
作成日:12/24/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


初めて担当する人でもこれなら分かる! できる!
「法定調書」の作成&提出はこうしてすすめる




 1月は法定調書の提出月です。初めて法定調書の作成を担当する人がその作業に戸惑うことはもちろんですが、年に一度の作業であるため、経験者であっても昨年のことを思い出しながら悪戦苦闘しているケースが少なくないようです。

 そこでここでは、法定調書の基礎知識から作成・提出事務をスムースに行なうためのポイントを紹介します。

●法定調書とは?

 今、この記事を読まれているみなさんのお手元には、11月ごろに税務署から送られてきた資料「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」があるのではないでしょうか。

 この手引の題名にもあるように、もっとも代表的な法定調書は、「給与所得の源泉徴収票」です。給与所得の源泉徴収票は、総務・経理関係の仕事に就いていなくても、社会人経験1年以上の方であれば、一度は受け取ったことがあるものでしょう。

 国税庁タックスアンサー(http://www.taxanser.nta.go.jp/)では、法定調書について、次のような説明を行なっています。

 法定調書とは、所得税法、相続税法、租税特別措置法及び内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の規定により税務署に提出が義務づけられている書類をいいます。

 難しい内容のように感じますが、要は「法定調書は、法律によって提出が義務付けられている書類である」ということを説明しているのです。

 少し深追いになりますが、年末年始の多忙を極めるこの時期に、なぜ私たちは法定調書の作成・提出という手間のかかる仕事をしなければならないのかを考えてみたいと思います。

 先のタックスアンサーの説明に出てきた「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」の第1条では、法律の趣旨が次のように書かれています。

 この法律は、納税義務者の外国為替その他の対外取引及び国外にある資産の国税当局による把握に資するため、国外送金等に係る調書の提出等に関する制度を整備し、もって所得税、法人税、相続税その他の内国税の適正な課税の確保を図ることを目的とする。

 分かりづらい場合は、太字部分のみを読んでみてください。法定調書を作成・提出する目的は、適正な課税のための、取引及び資産の国税当局による把握ということになるでしょう。

 つまり、「だれがいくら、どのような種類の収入を得ているのかを税務署に知らせるため」に、私たちは法定調書を作成し、提出しなければならないのです。

●法定調書作成のポイント

 税務署の資料「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」では、みなさんの多くが提出しなければならないと思われる法定調書として、次の6つを掲げています


1)

給与所得の源泉徴収票と給与支払報告書

2)

退職所得の源泉徴収票と特別徴収票

3)

報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書

4)

不動産の使用料等の支払調書

5)

不動産等の譲受けの対価の支払調書

6)

不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書

 1)~6)の法定調書は、所得税の源泉徴収の有無により、1)~3)、4)~6)と大きく2つに分けることができます。ちなみに、源泉徴収というのは「天引き」のことです。所得税を天引きして支払うものか否かによって、大きく二つに分けられるということです。

 所得税の源泉徴収を伴なわない4)~6)の場合には、単純に支払額を合計していけば支払調書作成の基となる金額データを作成することができます。しかし、源泉徴収を伴なう1)~3)の場合には、「単純な現金支払額」=「法定調書に記載する支払金額」とはなりませんので注意が必要です。

*支払金額と源泉税額を記載する法定調書「1)~3)」のポイント

 1)については、法定調書の提出の有無にかかわらず年末調整をしなければならないので、法定調書を作成する目的で新たにデータを集計する必要はありません。

 しかし、2)3)については、支払金額(源泉徴収前)と源泉徴収税額を、法定調書作成の目的で集計する必要があります。

 2)の退職所得の源泉徴収票は、退職金を支払った場合の法定調書ですから、どのような場合に作成すべきかについての説明は割愛します(詳細は税務署の資料を参照してください)。

 3)の報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書については、その報酬の内容について少々説明しておくことにしましょう。3)の調書を作成しなければならない報酬は、次のとおりです。



a)

原稿料や工業所有権の使用料等

b)

弁護士・税理士等への報酬

c)

外交員、集金人、電力量計の検針人、モデルへの報酬、芸能人への出演料等

d)

ホステス、コンパニオン等への報酬

e)

広告宣伝のための賞金、馬主への競馬の賞金

 このうち、b)を除く報酬は、支払う側の業界が限られている報酬ですから、これらの報酬を支払っている会社では、すでに法定調書作成の事務フローが整っていたり、法定調書発行のためのソフトウェアを導入されていることと思います。このような場合は、税務署の資料「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」を読む前に、昨年の資料・データをしっかり確認してください。

 一方、b)の報酬は、ほとんどの会社で支払実績があることと思います。とはいえ、法定調書を作成するために毎月データを整理している場合はまれでしょう。b)の報酬は、前述のとおり源泉徴収を伴なうものですから、法定調書作成の取り掛かりとしては、源泉所得税の納付書の確認ということになります。

 3)の報酬を頻繁に支払わない会社では、b)の報酬にかかる源泉所得税を給与等の源泉所得税と一緒に支払っているはずです。支払いの際に「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」と書かれた領収証書が残っていると思いますので、この領収証書の「税理士等の報酬」欄に書かれている「支給額」と「税額」を、支払先ごとに分解して集計していけば、法定調書に記載する金額の基データを作成することができます。

*支払金額のみを記載する法定調書「4)~6)」のポイント

 4)~6)の法定調書は「実際の支払金額」=「法定調書に記載する支払金額」となりますので、総勘定元帳から金額を集計して作成することができます。

 4)は地代・家賃、権利金・更新料等を支払った場合、6)は不動産の仲介手数料を支払った場合に提出します。

 いずれも同じ人に対する平成15年中の支払金額の合計が15万円以上の場合に作成・提出します。なお、4)のうち、法人に対する地代・家賃については、作成・提出の必要はありません。

 また、5)は不動産を購入した場合に提出するものですから、不動産会社以外ではそうめったに提出するものではないでしょう。平成15年中に不動産を購入している場合は、契約書を見ながら記入してください。

●提出事務のポイント

 冒頭の「法定調書とは?」で紹介したとおり、法定調書提出の趣旨は「取引及び資産の国税当局による把握に資するため」です。しかし同時に、法定調書は「もらう側の収入証明」や「徴収された源泉徴収税額の証明書」としての役割も果たしているのです。

 つまり、法定調書を作成した場合には、受給者に対しても法定調書を渡す必要があるということです。

 たとえば、前述1)の給与所得の源泉徴収票の場合、受給者(本人)が会社員で年間給与額が500万円以下であれば、税務署への提出は不要ということになっています。しかし、「個人の収入証明書」の役割を果たすという観点からは、金額の多寡にかかわらず本人へ支払調書を発行する必要があります(この点については、勘違いしないように注意してください)。

 また、前述1)の給与所得の源泉徴収票と、2)の退職所得の源泉徴収票は、国税のみならず、住民税の立場からも提出が要請されている法定調書です。

 1)については「給与支払報告書」、2)については「特別徴収票」がそれぞれ付記されており、これらは税務署ではなく、受給者の住所地の市区町村役場に提出する必要があります。理由は、住民税額決定の基礎資料とするためです。国税当局の情報収集という目的とは異なりますので、少額のものでも必ず提出してください。

◇     ◇

 以上、税務署の資料「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」を読む際の参考になる情報を紹介しました。

 目的が分かれば、制度の内容の理解も早まります。本稿が、みなさんが法定調書を作成する際の一助となれば幸いです。

〔月刊 経理WOMAN〕