「人材派遣」を上手に活用するための最新知識&ノウハウ
   
作成日:02/22/2006
提供元:月刊 経理WOMAN
  


「人材派遣」を上手に活用するための最新知識&ノウハウ




 近年、専門職の派遣や紹介予定派遣など、派遣の種類が多様化しています。

 ここでは、最新の人材派遣事情と中小企業が活用するためのノウハウをご紹介します。

 1986年に労働者派遣法が施行されました。当初、即戦力のプロ集団といううたい文句を基本に、派遣活用および派遣で働ける業務を16に限定してスタートしましたが、何度かの改正によって、今では一部(建設、港湾、警備等)を除いてほとんどの業務が解禁されています。

 最近では、テレビコマーシャルでも、地下鉄やバスなどの乗り物の中吊りでも、派遣会社の広告を目にするようになりました。また、求人情報誌を追い越すように、インターネットで派遣会社や、派遣の仕事情報を収集する人たちも増えてきました。ではなぜ、このように派遣市場に注目が集まっているのでしょうか。以下に、派遣業界の最新事情をご紹介しましょう。


■派遣業界花盛りは規制緩和のたまもの

 厚生労働省がまとめた平成16年度の事業報告書によれば、派遣先(派遣を活用する企業)件数は約50万件(対前年度比で17.0%増)を数え、この伸び率のまま推移すると17年度には既に60万件近くの企業が派遣を活用しているとみられます。平成8年度の派遣先件数約22万件と比較すると概ね2倍強の伸びです。

 派遣労働者(以下「派遣スタッフ」)数は227万人(対前年度比4.1%減)。やや減少傾向が見られますが、後に述べるように、今後は増加に転じると予測されます。

 今や、パートやアルバイトなどの直接採用と並んで、企業の派遣活用および派遣で働くことが根付いているといってよいでしょう。

 また、紹介予定派遣という制度も生まれました。これは2000年にスタートした制度です。もともと正社員を希望しているのに、不景気のあおりで企業が採用活動をしないために派遣という働き方を選択する人たちも多くいます。そんな人たちの声を拾い、6ヵ月を限度に派遣スタッフとして活用したのち、派遣先と派遣スタッフ双方が合意すれば社員として採用するというのが、紹介予定派遣の仕組みです。

 派遣先は、その派遣スタッフが社員採用するだけのスキルを有しているかなどを見極めることができますし、働く側も企業風土や業務内容が自分に適しているかを経験できることから、双方にメリットがある制度といえます。


■事務方のサポーターから営業販売までニーズは拡大

 派遣システムは使用と雇用を分離したシステムです。派遣スタッフの雇用責任は派遣元(派遣会社)が負い、派遣先はもっぱら職場での指揮命令を行ないます(これを使用責任といいます)。

 従来の伝統的な雇用者と被雇用者の二者関係の場合は、いったん従業員を採用すると事業主に雇用責任が発生します。採用、配置、教育研修や社会保険料などのコストと、解雇上の責任など精神的な負担も無視できません。

 実務能力もそれほどでなく、遅刻、欠勤など一向に改善されない勤務態度であったとしても、「君は会社に不要だ」と簡単に解雇できないのです。それらを見ても雇用責任の回避は派遣活用の大きなメリットといえるでしょう。

 ただし、あくまで派遣活用は基本的に有期契約であり、専門的業務に限定されたものとして企業の補完要因という色の濃いものでした。

 ところが先述のとおり、何度かの改正により派遣システムは大きく様変わりしました。1999年の“自由化”で顕著になったのが営業職、販売職などの需要です。新商品の開発により期間限定ではあるものの、一気に新規開拓要員を必要とするようなケースでも派遣を活用できるようになりました。

 その他、既存顧客向けのルート営業を派遣でまかない、社員には新規開拓に全力投球させる例などもあります。いずれにしても営業職等への門戸開放は、働く人たちにとって大きな職域拡大になったことは間違いありません。

 携帯電話の販売スタッフにも、派遣が活用されています。量販店で元気な声を張り上げて顧客を誘導している販売員をあっちこっちで見かけますが、これらに引っ張りだこなのが派遣スタッフだといえばわかりやすいでしょう。「事務職の経験はないが、販売接客なら任せてください」という若い人たちにはもってこいの仕事です。

 洋服の販売職も人気職種です。最近では美容師も増加しています。これこそ、事務職オンリーに近かった従来にはない派遣活用の拡大です。

 さらに一昨年の2004年には、大きな法律改正がなされました。詳細については割愛しますが、専門的職種は3年を限度にしていたのが無期限に、自由化された業務においては1年が3年まで活用できるようになったのです。

 このような期間撤廃は今後、ますます企業の活用方法や派遣での働き方に変化をもたらすことが予想されます。今後は、とっさのときのサポーターから、中長期的に業務遂行に組み入れる企業が増えてくるのではないでしょうか。もちろん、働く側から見ても同様です。

 今までは、正社員の仕事が見付かるまでとか、数ヵ月後の留学を控えた軍資金稼ぎという、間に合わせ的な働き方が多かったのですが、これからは自分のキャリアプランを立てるときに、派遣スタッフという選択が重要な位置を占めるようになることが予想されます。


■中小企業の上手な派遣活用ポイント

 派遣システムの活用は、派遣先規模の大小に関わらず留意点はほぼ同じです。このシステムの一大特徴である「使用と雇用の分離」に注目すること、それに尽きるはずです。

 といっても、大企業なら目に付かない点でも、社員数に限りのある中小企業となるとそうはいかないところも出てくると思います。そこで以下に、活用のポイントについて紹介しましょう。

1)「派遣システムの導入目的を社員に周知しておく」

 不況が長く続きました。その結果、社員のリストラや早期退職といった言葉が社会に蔓延し、気持ちの落ち着かない職場を経験した人たちが少なくありませんでした。しっかり仕事をしたいと思う社員にとっては、決して居心地のいいものではなかったと推測できます。

 そういった観点からも、このシステムを導入しようとする会社は、その目的や期間などを、はっきりと社員に説明しておくことが欠かせません。

 ある程度の期間限定であることや、もしくは長期展望であっても既存社員の職域を脅かすものではないことなどをディスクローズ(情報公開)することが必要でしょう。また、社員も自分の立場を揺るぎないものにするために、更にスキルアップが求められることを認識できるはずです。

 会社側と働く側。この双方が一丸となって派遣システムを有効活用することが、効果的な結果をもたらす重要ポイントなのです。

2)「派遣スタッフの担当業務を明確にしておく」

 せっかくコストをかけて派遣を利用するのですから、効果的な結果を生まなければ意味がありません。

 どんな仕事内容を、いつまでに、どのように担当してもらうかを、導入以前に明確にしておきましょう。

 この業務計画は従来の仕事の分担や作業の流れを見直すチャンスになるといった効果も生みます。これは思いのほか無駄な作業だからカットしようとか、重要な事務処理はやっぱり社員に担当してもらうのが安心だとか、業務効率だけでない観点からの見直しを図ることができる場合もあります。

3)「仕事の指導担当者を明確にしておく」

 派遣スタッフへの仕事の指示者を決めておくことは、契約締結時に法的に定められたことであることを除いても欠かせない事項です。そのことが明確でない上、他の社員への周知徹底もなされていないために起こりがちな事例を挙げてみましょう。

 どんな仕事が待ち受けているか、期待に胸ふくらませて初日を迎えて出社したのに、指導担当者が「会議があるのでちょっと待って」と放り出したまま、派遣スタッフはなすすべもなく座席にポツン…。よくある話です。社員からはジロジロ見られて身の縮まる思いをしたという派遣スタッフの話は笑えません。

 反対に、“仕事なだれ現象”で卒倒しそうになったという話も日常茶飯事のようです。使わにゃ損、とばかりにあっちからもこっちからも仕事がくる、書類が氾濫するなどはスタッフにとって自信喪失の一大要因です。業務の優先順位も分からず、かといって「今、それをこなす時間がありません」とはっきり断る人間関係もできていないものにとっては、苦痛以外の何ものでもありません。

 適正量を適正な人間から指示する、これが基本です。

4)「トラブル防止策は派遣先が使用者に徹すること」

 派遣システムは使用者責任と雇用者責任を分離したシステムです。そのルールを守ることがもっとも大事といえるでしょう。

 派遣スタッフに給与や有給休暇などの雇用条件を聞くことは避けた方が無難です。

 同様に、個人情報に関する質問もタブーです。1人住まいか、どこに住んでいるか、父親はどんな仕事かなど、挙げ句の果ては自宅の電話番号を教えろなどはもってのほかのヒアリングです。このような越権行為はトラブルの元であり、不要な軋轢の原因になることが少なくありません。

 聞きたいことがあれば派遣元(派遣会社)に確認することが、急がばまわれでトラブル防止の要です。

 仕事以外の会社行事に誘うときも、派遣元へ確認した方がよいでしょう。時間単位で給与が発生する派遣では、業務外での拘束も自由ではないはずです。社員と同様に扱いたいという派遣先の親切な配慮があだにならないよう、それこそ配慮が必要です。

 以上、派遣にまつわる最新情報と活用ポイントをアドバイスしてきました。ぜひ皆さんの会社でも、新しい戦力として派遣を活用してみてください。

〔月刊 経理WOMAN〕