「労災保険給付」に強くなるための特別講座
   
作成日:02/23/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


手続きはどうするの? どんな給付が受けられるの?
「労災保険給付」に強くなるための特別講座




 業務上の災害や通勤途上での災害による従業員の負傷や疾病は、労災と認定されれば、その状態によってさまざまな給付が受けられます。しかし、その仕組みや手続きが分からないという人は多いのではないでしょうか?

 労災保険給付の実務で、担当者が知っておきたい知識について解説していきましょう。

■労災保険の基本的な手続き

 みなさんの会社で、労災保険の対象となる事故等が起きた場合、どのように対応すればよいのか、またどのような手続きがあるのかなど、具体的にお話していきます。

1)病院に行く前に、その病院が労災(指定)病院であるかチェックする

 病院に行く際には、その病院が労災(指定)病院であるかどうかを確認してください。なるべく労災(指定)病院に行くようにしますが、近くにない場合は労災(指定)病院以外の病院でもかまいません(※次ページで解説します)。

2)病院で、労災であることを伝える

 病院に行ったら、業務中もしくは通勤中の災害によるものであることを伝
えてください。健康保険の被保険者証を使わないように注意しましょう。

3)後日、治療を受けた病院に指定の請求書を提出する

 治療を受けた労災(指定)病院に、指定の請求書(様式第5号)を提出します。院外(指定)薬局で薬の支給を受けるときも、その院外(指定)薬局に提出する請求書(様式第5号)が必要となりますので、注意してください。

 書類の提出は、なるべく早めに済ませましょう。これらの請求書を提出することにより、被災労働者は自分で費用を負担することなく治療を受けることができます。健康保険の被保険者証の代わりのようなものと思ってください。

※1)で労災(指定)病院にかかれなかったときは、労災であることを病院に伝え、原則としては、その場でいったん治療費を全額(10割)支払い、後でかかった費用をまとめて請求します。

 この場合の請求手続きは、指定の請求書(様式第7号)に病院の証明をもらい、領収証を添付して会社を管轄する労働基準監督署に提出することになります。

 労災関係の請求書(「法令様式」といいます)について、表にまとめました。これらは労働基準監督署でもらうことができます。労働基準監督署には各給付ごとに請求手続きのパンフレットが置いてありますので、機会のあるときにもらっておくとよいでしょう。

表 労災保険の給付の種類と法令様式 上段…業務災害 下段…通勤災害
給付
請求書の様式
提出先
療養現物給付療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)病院や薬局等を経由して所轄労働基準監督署長
療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)
療養費用請求療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号の(1)~(5))所轄労働基準監督署長
療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5(1)~(5))
労災(指定)病院等の変更療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号)変更後の指定病院等を経由して所轄労働基準監督署長
療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第16号の4)
休業休業補償給付支給請求書(様式第8号)所轄労働基準監督署長
休業給付支給請求書(様式第16号の6)
障害障害補償給付支給請求書(様式第10号)
障害給付支給請求書(様式第16号の7)
遺族遺族補償年金支給請求書(様式第12号)
遺族年金支給請求書(様式第16号の8)
遺族補償一時金支給請求書(様式第15号)
遺族一時金支給請求書(様式第16号の9)
葬祭葬祭料請求書(様式第16号)
葬祭給付請求書(様式第16号の10)
介護介護補償給付・介護給付支給請求書(様式第16号の2の2)
介護補償給付・介護給付支給請求書(様式第16号の2の2)
二次健康診断等二次健康診断等給付請求書(様式第16号の10の2)病院等を経由して所轄労働局長

 また、文具店などでも購入することが可能です。そのときには、「労災の法令様式○○号」と、具体的に様式番号を指定してください。市販の様式には書き方の説明が付いていますので、それを参考に記入するとよいでしょう。
 なお、業務災害と通勤災害では様式が違ってきますので、準備する際はこの点に注意してください。


■労災保険の実務Q&A

 具体的な手続きについてお話しましたが、実際はみなさんが判断に迷うケースも少なくないのではないでしょうか。ここでは、よくある疑問を取り上げ、解説していきます。

Q1
 Aさんは業務災害により骨折し、近くの病院で健康保険証を提示して治療を受けたところ、社会保険事務所から健康保険の適用をしないので費用を返還するようにと請求書が届きました。どうすればよいですか?

A1
 返還請求書により社会保険事務所に費用を返還した上で、「診療報酬明細書(レセプト)」を社会保険事務所からもらってください。「様式第7号」に返還金の領収証の原本と「診療報酬明細書(レセプト)」を添付して所轄の労働基準監督署に改めて請求の手続きをすることになります。


Q2
 Bさんは仕事が溜まってしまい、自発的に休日出勤して、その際にけがをしてしまいました。この場合、労災の認定はおりますか?

A2
 この場合は、たとえ仕事をしていたとはいえ、自発的な休日出勤であり、事業主の支配下(指揮命令下)にあったとはいえません。ですから、業務遂行性があったとは判断されず、労災の認定を受けられないことがあります。


Q3
 Cさんはいつも電車を使って通勤していますが、この日は会社から多くの資料を持ち帰るつもりだったのでマイカーで通勤し、途中で事故に遭いけがをしました。会社ではマイカー通勤を禁止しています。労災の認定を受けられますか?

A3
 いつもと違う手段とはいえ、このケースでのマイカーの使用も一般に合理的な通勤手段の一つと判断されます。合理的な経路および方法は、本人が会社に報告している「通勤経路」だけに限られるわけではなく、複数のものが該当するのです。ですからこの場合は、通勤災害となり労災の認定を受けられます。会社がマイカー通勤を禁止しているかどうかは、認定の判断に関係ありません。


Q4
 どのような場合に過労死が労災として認められますか?

A4
 過労死とは、一般的には過重労働や仕事上の著しい負荷が溜まって発症した、脳血管疾患や虚血性心疾患などにより死に至るケースをいいます。この場合の労災の認定には、次の新しい基準が設けられています。
1)発症直前から前日までの間に仕事で取返しの付かないミスをしたり、クレームを起こしたなど「異常な出来事」があったかどうか
2)発症前およそ1週間の間に、日常業務に比べてとくに過重な肉体的、精神的な負担がかかる業務をしていたかどうか
3)発症前1ヵ月および6ヵ月における業務量や仕事の内容、業務の環境などを考慮し、著しい疲労が蓄積される状態であったかどうか
 これらをもとに、より具体的な勤務状況を考慮して判断がなされます。


Q5
 パソコンの入力業務をしているDさんは、最近、首筋から肩、上腕部にかけてしびれを訴え、病院に行ったところ、「頸肩腕症候群」と診断されました。Dさんは業務が原因と主張していますが、労災として認定されますか? 同じ業務についている社員は他に7名いますが、Dさんのような症状を訴える人はいません。

A5
 この場合は、Dさんの症状と業務の相当因果関係が認められるかどうかがカギとなります。Dさんの業務量が他の人と比べて明らかに多い状態が3ヵ月以上続いたり、業務量が一定せず、月当たりの業務量は平均していても、一時的に業務量が通常より極端に増えたりすることが継続したりした場合には、労災として認定される可能性が高いと思われます。


Q6
 労災保険の請求をすると、保険料が上がるというのは本当ですか?

A6
 連続3年以上、労働者の数が一定規模を超える事業(たとえば、小売業であれば89人を超える事業)においては、「メリット制」というものが適用されます。
 メリット制とは、事業主の保険料負担の公平を図り、事業主の自主的な労災防止の努力を高めることを目的としたもので、労災保険の給付請求が多ければ(実際は保険料と給付金額の収支率によります)労災保険率は上がり、少なければ保険率が下がる仕組みです。感覚的には自動車の任意保険の等級に近いものと思ってよいでしょう。
 ただし、一定規模以下の規模の企業については、いくら保険給付を受けても、それによって保険料が上がるということはありません。


■実務担当者が注意しなければならないこと

 まず手続きについては、前述したような労災発生初期の対応をきちんと行なうことです。あらかじめ、会社の近くの労災(指定)病院等を確認しておくとよいでしょう。

 そして、労災保険の給付請求は、業務災害と通勤災害で使用する請求書が違いますので、業務上なのか通勤上なのかの判断を的確にしてください。

 また、よくあるのが、「これは労災に当たらないだろうから、請求するのはやめておこう」などと、事業者や実務担当者、労働者が、労災に該当するのかどうかを勝手に判断してしまうケースです。あくまでも労災の認定を行なうのは国(労働基準監督署)であって、実務担当者のみなさんではありません。勝手な判断により請求をしなかった場合、「会社が労災を隠した」と後でトラブルを招くことにもなりかねませんから、判断に迷うときは、必ず労働基準監督署に問い合わせをして指示を仰ぐことをお勧めします。

◇     ◇

 労災保険は、労働者にとって大切な補償を行なう制度です。実務に携わるみなさんは、その手助けをする立場にいるわけですから、日頃から正しい情報収集をして迅速かつ適正に対応できるよう心掛けてください。

〔月刊 経理WOMAN〕