平成17年度「税制改正」の最新の動きを探る!
   
作成日:11/29/2004
提供元:月刊 経理WOMAN
  


定率減税の縮減・廃止、所得控除の見直し…
平成17年度「税制改正」の最新の動きを探る!




 政府税制調査会(以下、政府税調)は、平成17年度税制改正を視野に入れた議論を、9月21日にスタートさせました。

 途中、三位一体改革(地方の権限と責任を大幅に拡大する方向で、1)国庫補助負担金の改革、2)地方交付税の改革、3)税源移譲を含む税源配分の見直しの三つを同時に進めるもの)との整合性をはかりながら、11月末の答申の取りまとめを目指しています。

 また、自民党の税制調査会(以下、自民党税調)は、11月下旬に検討を開始して、12月中旬の税制改正大綱の取りまとめを目指すスケジュールを組んでいます。

 平成17年度税制改革は、基本的に財政再建を目指す方向性(増税の方向性)が示されるものと思われます。「増税」は、政治的決断項目ですから、「増税」の具体的な内容の判断はおそらく、12月に入ってからの自民党税調の議論待ちになります。

 しかも、故山中貞則氏のような税制調査会の「ドン」が不在なだけに、17年度税制改正大綱に盛り込まれる内容(具体的な項目)は、予想が難しい状況です。執筆時点では、レースは始まったばかり、予想屋になった気分で気軽に読んでいただければ幸いです。

 平成17年度税制改正の主な検討項目と、改正の可能性の大胆予測は表のとおりです。

表 平成17年度税制改正大胆予測


検討項目

大胆予測

1)

定率減税の縮減・廃止

平成18年・19年で段階的に縮減・廃止

2)

人材投資促進税制の創設

要件を限定して導入

3)

各種所得控除の見直し

中期的な見直し事項
子育て世代への配慮を検討中

4)

中古住宅に係る特例措置における築後経過年数要件の撤廃

「中古住宅の流通を促進」「良質な住宅ストックの形成」という中古住宅政策の一環として実現の可能性大

5)

環境税の導入

平成17年度税制改正では、検討事項止まり

6)

金融所得課税の一体化

段階的に(損益通算の範囲を拡大して)導入する方向
選択制で、納税者番号制とともに導入の方向

次にそれぞれの内容について、触れていきたいと思います。


1)定率減税の縮減・廃止

 定率減税とは平成11年度税制改正において導入された「恒久的減税」の一部です。所得税については税額の20%相当(25万円を限度)が、個人住民税では税額の15%相当(4万円を限度)が控除されるという内容です。

 平成17年度税制改正では、消費税の税率引上げが見込めないために、財政再建路線のシンボル的な意味合いで、この定率減税の縮減・廃止が検討されています。 政府税調は、平成18年と平成19年の2年間で、段階的に定率減税を廃止する方針を17年度税制改正答申で示唆するものと思われます。

 増税の決断は、景気の判断や、他のマクロ経済的な施策の中で行なうことが求められます。平成17年度税制改正で税制改正法案を成立させておいて、景気が悪化した場合には、定率減税の廃止を延期することも考えられるかもしれません。


2)人材投資促進税制の創設

 経済産業省・経済界が税制改正要望を出しているのが、人材投資促進税制の創設です。人材投資促進税制は、わが国の産業競争力の強化を図ることを政策目的とし、企業の人材育成費用の一定割合について、法人税(所得税)から税額控除する制度です。

 政策目的に理解を示し、平成17年度税制改正のシンボルとして実現させることになるのか、実質的な法人税の空洞化をはかるものとして、人材投資促進税制の創設が見送られることになるのかは、現時点ではまったく予断できません。これからが具体案を作成しての折衝になるものと思われます。

 人材育成費用の要件を明確化(厳格化)させた上で、税額控除の率を調整して、制度創設の趣旨を生かすことになるのではないでしょうか。


3)各種所得控除の見直し

 これまでも、配偶者控除・扶養控除の取扱いや退職所得控除の取扱い、給与所得控除の取扱いなどの見直しが検討されてきました。いずれも所得控除の縮減・廃止の検討であり、増税項目です。

 ただ、定率減税の縮減・廃止から手をつけていくことになるので、各種所得控除の見直しは中期(5年程度)的な課題と捉えているようです。

 退職所得控除では、勤続年数20年超の割増部分について見直しが行なわれることが考えられます。また配偶者控除では、個人単位課税を一層推進するという政府税調の方針を受けて、いろいろな案が検討されています。

 その他、少子化対策として、子育て世代への対応が検討されています。これまで子育てへの対応は、基本的には所得控除(扶養控除)や児童手当の給付によって行なわれてきました。これを税額控除制度や、児童手当の給付制度の拡充という方向に変えていくことを検討しているようです。

 所得控除や税額控除では、所得税を負担していない場合には、子育てへの優遇措置にはなりませんが、給付制度であれば、所得税の負担をしていない場合でも優遇を受けることができます。しかし一方で、給付制度の拡充は、苦しい財政状況下でのバラマキとの批判を受けることにもなりかねません。

 税だけの問題ではないので、政治判断となりますが、議論の進捗状況からすると、現行制度(扶養控除)が維持されそうです。

 給与所得控除の引下げに手をつけるのは難しい気もしますが、大きな課題であることは間違いありません。消費税の税率アップと給与所得控除の引下げに手をつけたときこそ、財政再建への不退転の決意を読み取ることができるのではないでしょうか。


4)中古住宅に係る特例措置における築後経過年数要件の撤廃

 国土交通省は、「中古住宅に係る特例措置における築後経過年数要件の撤廃」を要望しています。

 (1)住宅ローン減税、(2)特定の居住用財産の買換え特例、(3)住宅取得資金等贈与(相続時精算課税)、(4)住宅取得資金等贈与(5分5乗方式=5年に分けて贈与を受けたと仮定して税額を計算する方法)、(5)住宅用家屋の移転登記に係る登録免許税の軽減、(6)中古住宅等に対する不動産取得税の特例、といった中古住宅に係る特例措置では、築後経過年数要件(耐火建築物…築後25年以内、耐火建築物以外…築後20年以内)が設けられていましたが、新耐震基準を満たすことを条件に築後経過年数要件を撤廃するものです。

 平成16年度与党税制改正大綱で、「中古住宅等に係る取扱いについては、中古住宅政策とあわせ検討する」としており、比較的、実現の可能性の高い税制改正要望項目です。

5)環境税の導入

 環境省からは、地球温暖化対策の推進に必要な税制上の措置として、環境税の導入が要望されています。平成16年9月、ロシア政府が京都議定書を批准する旨の政府決定を行ない、京都議定書(各国ごとに二酸化炭素等の温室効果ガスの削減目標を定めました。日本は基準年“1990年”に比して6%削減することを約束しました)が発効する見通しが立つことになりました。

 政府税調は、「地球温暖化問題をはじめとした環境問題に対する総合的な取組みの一環として、税制面での対応について幅広い観点から検討していく必要がある」としていました。

 しかし、経済界からは「環境税は、温室効果ガスの抑制につながらないばかりか、エネルギー効率のよい日本から環境税が存在しない途上国等へ生産をシフトさせ、地球規模の問題解決に逆行するものでしかない」として、環境税に断固反対の方針が示されています。

 環境省は環境税の具体的内容について、環境省案の作成を急いでおり、政府税調は、11月中旬にも集中審議を行なう方針です。

 小泉首相は、「税制全体の観点から見なければならない問題」と国会答弁していますが、導入反対の声が強いこともあり、環境税は平成17年度税制改正大綱(答申)に検討の方向が明記されることになりますが、具体案としての環境税の導入は、翌年以降になるものと思われます。


6)金融所得課税の一体化

 金融所得課税の一体化とは、文字どおり商品ごとに複雑で分かりにくい金融所得の課税の方法を一本化しようというものです。預貯金に滞留している個人貯蓄を株式や投資信託などの投資商品に誘導し、金融市場を活性化しようという目的があります。

 一本化のための改正は、数年にわたって段階的に導入されるという見方が有力です。ただ、方向性を示すためにも、段階的導入の一段階の施策が平成17年度税制改正で講じられるものと予想されます。

 ここではスペースの都合で詳しい内容には触れませんが、金融所得課税の一体化のためには、金融商品の所得に係る課税情報がもれなく、適切に集められる態勢(制度)が前提となるでしょう。その意味では「納税者番号」の導入といったことも視野に入ってくると思われます。

◇     ◇

 現在の日本人は、日本政府を信用できないと感じるようになってきているのではないでしょうか。大幅な財政赤字に、年金問題、国の財政・税制が将来どうなるのか、国民は漠然とした不安に包まれています。

 平成17年度税制改革は、「聖域なき増税」の方向性を示す第1歩になるものと思われます。上記に書けなかった項目として、相続税の基礎控除額の引下げなども検討されるようです。「所得税や消費税が基幹税などとはいっていられない。法人税も資産税も総動員して税収アップにつなげたい」というのが、財政当局の本音でしょう。

 ただし、増税はすぐに実行できるものではありません。すでに、消費税の事業者免税点制度の適用上限が1000万円に引き下げられ、簡易課税制度の適用上限も5000万円に引き下げられる改正が行なわれています。

 また、公的年金等控除・老年者控除が圧縮・廃止されるなどの増税策は、平成17年分の所得税から実施されることになります。増税の痛みを感じるのは、少し時間をおいてからということになりそうです。

〔月刊 経理WOMAN〕