出産から職場復帰にまつわる手続き
   
作成日:07/22/2008
提供元:月刊 経理WOMAN
  


出産一時金の申請から職場復帰給付金の請求まで
社員の「出産から職場復帰」にまつわる手続き便覧




 近年、出産後も仕事を続ける女性が増えています。中小企業ではこれまで育児休業を取って職場に復帰するケースが少なかっただけに、どのような社会保険手続きを取ったらよいのかわからない、という声も聞かれます。

 そこでここでは、社会保険(健康保険・厚生年金保険)と雇用保険の手続きを、産休から育児休業期間中、復帰後までの流れに沿って、わかりやすく解説していきます。

◆社会保険の給付と保険料の免除

 女性社員から、出産のために産前産後休業を取りたい旨の申し出があったとき、まず確認しておきたいのが「出産予定日」です。出産予定日がわかると、産前休業がいつのタイミングで始まるのか把握することができ、その後の人材配置も迅速な対応を取ることができるでしょう。

 出産・育児休業に関連して、社会保険手続きで必要となってくるのは、次の書類です。


1)

出産育児一時金支給申請書

2)

出産手当金支給申請書

3)

育児休業等取得者申出書

4)

育児休業等取得者終了届

5)

育児休業等終了時報酬月額変更届

6)

養育期間標準報酬月額特例申出書

 それでは、早速詳しい内容について見ていきましょう。


出産育児一時金について~出産したときにもらえる給付

 健康保険の被保険者である女性社員が出産すると、「出産育児一時金」の給付が可能となります。給付額は一児に対して35万円です。

 社員の被扶養者が出産した場合は、「家族出産育児一時金」となりますが、申請書は同じものですので、被保険者または家族のいずれか該当する方にマルをします。

 被保険者の氏名、住所、出産した年月日、出生児の氏名等を記載し、医師、助産師又は市区町村長の証明のいずれかを受けます。なお、医師等の証明欄における押印は省略できませんので、ご注意ください。

 ここでいう「出産」とは、妊娠4ヵ月を超える出産を言います。妊娠1ヵ月は28日ですから、妊娠85日以上の出産が対象となります(生産、死産、流産、早産を問いません)。なお、死産の場合、出生児の氏名は記載せず、医師から妊娠何ヵ月目の死産であるかを記入してもらいます。

 給付金の受取りを代理人に委任する場合、委任者及び受取代理人の署名・押印が必要です。

 提出先は、事業所を管轄する社会保険事務所または健康保険組合となり、出産日の翌日から2年以内が提出期限となります。

 また出産育児一時金について、事前申請することも可能になりました。出産予定日までの1ヵ月以内に社会保険事務所等に出産育児一時金支給申請書(事前申請用)を提出することにより、医療機関等へ一児につき35万円を上限として直接(35万円未満の場合は請求額が医療機関等へ支払われ、差額が被保険者に)支払われます。いずれを希望するか社員に確認し、手続きを行なうとよいでしょう。

 その他、妊娠に伴う様々な異常について治療が必要である場合は、療養の給付や高額療養費の申請が、またそのために労務不能で休業となる場合は傷病手当金の申請が必要となります。


出産手当金について~産前産後休業中にもらえる手当

 被保険者である女性社員が出産のために仕事を休み、給与の支給がない場合、出産日以前42日(双子以上は出産日以前98日)より出産日後56日までの産前産後休業期間に対して、出産手当金が給付されます。

 給付額は休んだ1日につき、標準報酬日額の3分の2相当額となります。「出産手当支給申請書」に被保険者の氏名、住所、出産のために休んだ期間(日数)等の他、産後にまとめて申請する場合は、出産日と出産予定日(出産前の申請は予定日のみ)を記入してもらいます。

 事業主証明欄では、労務に服さなかった日について記号で記載し、月ごとに出勤・有給日数を書き入れます。事業主及び医師等の押印は共に省略できませんので、提出前に必ず確認をしましょう。

 提出先は、事業所を管轄する社会保険事務所または健康保険組合となり、出産のため労務に服さなかった日の翌日から2年以内が提出期限となります。

 なお、添付書類は次のとおりです。

・賃金台帳
・出勤簿(役員等の場合で賃金台帳と出勤簿がない場合は議事録の写し)


社会保険料はどうなる?~保険料免除のしくみ

 社会保険において、保険料が免除となる期間は、最大で子が3歳に達するまでの育児休業等を取得している期間です。

 ただし、申出書の取扱いについては、


1)

1歳に達する日までの育児休業

2)

1歳から1歳6ヵ月に達する日までの育児休業

3)

1歳から3歳に達する日までの育児休業に準ずる休業

 に分けて、原則として届出を行なうことになります。

 たとえば、育児介護休業法のとおりに、子が1歳までの育児休業を認めている場合を考えてみましょう。まず「育児休業等取得者申出書」の「新規」にマルをし、養育する子の生年月日、養育のため休業する期間等について記載します。届出は、育児休業が開始された日から速やかに行ないます。

 復職が近くなって、仮に保育所の都合で予定を2ヵ月延長する場合は、育児休業等取得者申出書の「延長」にマルをし、再度届出を行なうと、両期間合わせて保険料が免除されます。

 就業規則に基づき、最初から2年間の育児休業を予定している場合でも、まず1歳に達する日までの養育期間で提出しておき、延長という形で、1歳から2歳までの育児休業等取得者申出書を再度提出する流れになります。

 育児休業期間が提出した申出書に記載したとおりだった場合は、復職について報告をする必要はありませんが、育児休業予定期間より早めに復職した場合は、「育児休業等取得者終了届」を忘れずに提出するようにしましょう。

 それでは、育児休業が終了し、職場復帰した後の保険料はどのようになるでしょうか?

 子育て中は残業ができない等の理由で、往々にして給与が下がることも考えられます。本来、随時改定をする場合には、固定的な賃金の変動があり、2等級以上の差があることが要件となりますが、育児休業後の場合は、1等級の差であっても、改定をすることが可能です。その際、「育児休業等終了時報酬月額変更届」によって届出を行ないます。

 ここで、「養育」という言葉の意味について少し触れておきましょう。養育とは、同居し、監護するということですが、必ずしも仕事をせずに育児に専念していることを指してはいません。育児休業から復職後、3歳未満の子を養育しながら働く被保険者が、勤務時間の短縮等の賃金減少により、社会保険料が低くなることがありますが、同時に将来もらえる年金額もその間低くなってしまう可能性があります。

 そこで、将来の年金給付が不利にならないよう、標準報酬月額が低下した期間について、従前の標準報酬月額をその期間の標準報酬月額とみなして、年金額を計算できる特例措置が設けられました(子が3歳になるまで)。この時に届出する書類が、「養育期間標準報酬月額特例申出書」です。

 たとえば、従前の標準報酬月額が26万円の被保険者が20万円の標準報酬月額になった場合、保険料額の算定は実際の標準報酬月額(20万円)で計算されますが、年金額の計算については、従前の標準報酬月額(26万円)で計算されます(みなし措置)。これで、将来もらえる年金額が減らなくて済むわけです。


◆雇用保険から受けられる給付

 社会保険では、育児休業中において社会保険料が免除になることはお分かりいただけたと思いますが、育児休業期間中、給与の支払いがない企業は少なくありません。その間の生活保障についてはどうなるのか、社員としてはもっとも気になるところでしょう。

 雇用保険では、被保険者が1歳(一定の場合1歳6ヵ月)未満の子を養育するために育児休業を取得した場合、一定の要件を満たすと育児休業給付の支給を受けることができます。

 育児休業給付には、「育児休業基本給付金」と「育児休業者職場復帰給付金」の2種類があります。それでは、詳しい内容について見ていきましょう。


育児休業基本給付金~育児休業中にもらえる給付

 1歳未満の子を養育するために育児休業を取得する一般被保険者で、育児休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が、12ヵ月以上ある方が対象となります(過去に基本手当の受給資格決定を受けたことがある場合、それ以後のものに限ります)。支給対象は男女を問いませんが、同じ子について2度目以降の育児休業である場合や、育児休業を開始する時点で離職が予定されている場合は対象となりませんのでご注意ください。

 給付額は、次の算式によります。

休業開始時賃金日額(※)×支給日数×30%

※育児休業開始前(産休を取った場合は原則として産前産後休業開始前)6ヵ月間の賃金を180で除した額。

(注意点)
1)休業開始前の賃金の8割以上支払いがないこと
2)休業日数が各支給対象期間ごとに20日以上あること

 また提出書類は、

・雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
・育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業基本給付金支給申請書

です。

 被保険者に受給資格があるかどうかを確認する手続きは、初回の支給申請と同時にできるので、一緒に行なうと便利です。受給資格確認の手続きのみをまず行なう場合は、育児休業を開始した日の翌日から起算した10日以内が提出期限となります。

 提出先は、いずれも事業所の所在地を管轄するハローワークになります。

 なお、添付書類は次のとおりです。

・賃金台帳
・出勤簿
・母子手帳等書類の記載内容が確認できるもの


育児休業者職場復帰給付金~復帰6ヵ月後にもらえる一時金

 育児休業基本給付金を受給した被保険者が、育児休業を終了した後引き続き6ヵ月間雇用された場合に支給される一時金です。子が1歳に達した日以後も引き続き休業している場合でも、6ヵ月間雇用されていれば、支給対象となります。

 給付額は、次の算式によります。

休業開始時賃金日額×育児休業基本給付金が支給された支給対象期間に係る支給日数の合計日数×20%

 また、提出書類は次のとおりです。

・育児休業者職場復帰給付金支給申請書

 支給申請は、事業所の所在地を管轄するハローワークに、育児休業終了日後6ヵ月経過した日の翌日から起算して、2ヵ月を経過する日の属する月の末日までとなります。

 たとえば平成19年8月1日が子の誕生日の場合、育児休業の終了は20年の7月31日となり、21年の3月31日が申請の期限となります。この提出期限を過ぎると、支給が受けられなくなることがあるので、十分に気をつけましょう。

 雇用保険には本人負担分の保険料が発生しますが、育児休業中で賃金の支給がなければ、雇用保険料は当然に発生しませんので、社会保険のように免除のしくみはありません。


◆中小企業向け助成金の活用について

 社員の仕事と育児の両立支援のために、現在様々な助成金がありますので、ぜひ活用されてみてはいかがでしょうか。

 ここでは、「中小企業子育て支援助成金」についてご紹介します。


中小企業子育て支援助成金とは?

 会社で初めて育児休業を取得、または短時間勤務適用者が出た場合、一定の要件を満たすと支給されます。受給できる事業主の要件は、次のとおりです。


1)

常時雇用する労働者数が100人以下であること

2)

次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていること

3)

労働協約又は就業規則の整備
a.育児休業取得の場合→育児休業について規定があること
b.短時間勤務適用の場合→短時間勤務制度について規定があること

4)

平成18年4月1日以降に初めて育児休業取得者または短時間勤務適用者が出たこと

5)

対象となる労働者が次のabを満たしていること
a.1歳までの子を養育するために平成18年4月1日以降、6ヵ月以上育児休業を取得したこと。また、復職後6ヵ月以上継続雇用されていること(育児休業取得者の場合)
b.平成18年4月1日以降、3歳未満の子について6ヵ月以上、所定労働時間・日数等を短縮する制度を利用したことがあること(短時間勤務適用者の場合)

6)

対象労働者の雇用保険の被保険者資格
a.育児休業取得者を子の出生の日まで、雇用保険の被保険者として1年以上継続雇用していたこと
b.短時間勤務適用開始日まで、雇用保険の被保険者として1年以上継続雇用していたこと

 支給申請の窓口は、本社等の所在地を担当する財団法人21世紀職業財団地方事務所となります。

 関連した内容では、「育児・介護雇用安定等助成金(両立支援レベルアップ助成金)」について、同じく財団法人21世紀職業財団が支給を行なっています。

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 女性活用が進む中、中小企業にとってもこれから育児休業に関連する保険事務が増えてくることが予想されます。スムースに事務手続きが進められるよう、本稿を役立てていただければ幸いです。


〔月刊 経理WOMAN〕