「少額減価償却資産」をめぐる税務処理10問10答
   
作成日:08/25/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


損金算入額から対象資産まであなたの疑問に答えます!
「少額減価償却資産」をめぐる税務処理10問10答




 もともと処理に迷いやすい減価償却資産ですが、なかでも少額減価償却資産に関しては大企業と中小企業の扱いが異なったり改正が頻繁に行なわれていることから、間違いが生じることが少なくありません。平成15年度税制改正においても、30万円未満の減価償却資産を取得時に全額損金とすることができるなどの改正がありました。ここで一度、少額減価償却資産をめぐる税務処理について整理しておきましょう。

Q1
そもそも少額減価償却資産とは何ですか?
 会計および法人税法では原則として、資産を購入した場合は、機械装置や器具備品などの資産科目として計上することになっています。ただ、すべてのものを資産計上して管理していたら、経理業務は大変煩雑になってしまいます。
 そこで、法人税法では次の二つの資産を少額減価償却資産として、取得時に全額損金(経費)とすることを認めています。
1)使用可能期間が1年未満のもの
2)1単位の取得価額が10万円未満のもの
 ただし、少額減価償却資産は、使用開始した事業年度において、その取得価額全額を損金経理している場合に限って損金とすることができます(損金経理とは、会社が経費として処理することです)。使用開始事業年度で資産計上して申告した場合には、翌期以降に少額減価償却資産として損金にすることはできません。その場合は、減価償却資産として通常の償却をしていくことになります。少額減価償却資産として全額を損金経理するかどうかは、あくまでも会社の選択ということになります。

Q2
今年から少額減価償却資産の規定が30万円未満に変わったようですが…?
 平成15年度の税制改正で、資本金1億円以下の青色申告法人については、取得価額30万円未満の減価償却資産を取得時に全額損金として処理することが認められました。
 ただし、この規定は、平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間に取得した資産に限られます。法人税法の少額減価償却資産はあくまでも10万円未満ですが、中小企業者に対する特例として、この30万円が認められたわけです(租税特別措置法67の8)。
 この特例は景気対策の一環として設けられたもので、中小企業にとって本当にありがたい特例です。30万円未満であればパソコンなどは経費処理できますし、ちょっとしたものを買っても経費で落とすことができます。ぜひこの特例を有効活用してください。
 なお、資本金1億円以下であっても、大法人の子会社などはこの特例を使うことはできませんのでご注意ください。

Q3
Q1の1)使用可能期間1年未満とはどのように判断するのでしょうか?
 この基準によって、たとえ100万円の資産でも使用可能期間が1年未満であれば、取得時に経費処理することができます。
 この場合の1年未満とは、通常の方法で使用する場合の使用可能期間のことです。つまり、1年以内の期間しか使わないこと、あるいは使えないことが明確なものが該当します。
 たとえば、テレビCM用フィルムなどは、通常テレビ放映期間が1年未満であることから、少額減価償却資産になります。また、1年未満の期間限定の企画で使用する看板なども同様に該当します。

Q4
1単位の取得価額は、どのように判断するのでしょうか?
 少額減価償却資産の10万円あるいは30万円というのは、通常1単位として機能するかどうかで判断します。
 よく引き合いに出されるのは応接セットです。応接セットは、通常テーブルと椅子をセットで購入し、かつセットとして使用するので、応接セット1組で10万円あるいは30万円の判断をします。
 また、マンションのカーテンなども、カーテン1枚で機能するわけではなく、一つの部屋に数枚で機能すると考えられますので、1部屋ごとの合計額で判断します。
 さらにパーテーションなども、パネル1枚で判断するのではなく、パネルを組み合わせた一体の部分で取得価額を判断します。組み立て式のスチール棚なども同様です。タイルカーペットなども悩むところですが、全体として施工するのであれば、フロアごとに判断すべきでしょう。 このように、1単位の取得価額は判断に迷うことが多いのですが、「その資産が本来の機能を果たすための最小限のまとまり」と考えるとよいでしょう。

Q5
消費税は取得価額に含めて判定するのでしょうか?
 10万円、30万円という取得価額の基準が出てきていますが、これらに消費税を含めるかどうかは、会社の消費税処理によります。
 税抜経理方式を採用している会社については、取得価額の判定は税抜価格で行なうことになります。税込経理方式の場合は、税込価格で判定します。なお、免税業者(年間課税売上3000万円以下。ただし、平成15年度税制改正にて1000万円に引き下げ)の場合は、税抜経理方式は適用できず、税込経理方式によることになります。

Q6
ソフトウエアの償却にも少額減価償却資産は使えますか?
 コンピュータのソフトウエアは、以前は繰延資産とされていましたが、平成12年4月1日を境に無形固定資産として取り扱われることになりました。
 よって、ソフトウエアについても、減価償却資産の範囲に含まれるため、少額減価償却資産の規定や一括償却資産の制度を使うことができます。もちろん、中小企業者の30万円未満の特例の対象にもなります。

Q7
30万円未満の減価償却資産は、何か特別な処理をしておく必要はありますか?
 30万円未満の特例を使える会社は、資産取得時に消耗品費などの経費科目で処理しておけばよいでしょう。なお、税務申告時にこの特例の計算に関する明細書を添付する必要がありますが、その明細書を次のような記載に代えることもできます。
 「取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産については、措置法67の8を適用している。また、適用した減価償却資産の取得価額の合計額は○○○円であり、その明細は別途保管している」
 このような文面を減価償却の別表に記載します。
 取得価額10万円未満については、本来の少額減価償却資産を適用しますので、記載の必要はありません。10万円以上30万円未満の減価償却資産について、その合計額を決算時に算出できるようにしておけばよいことになります。会計ソフトを使っている場合は、消耗品費に専用の補助コードをつけて管理しておくとよいでしょう。

Q8
30万円以上の資産については、IT投資促進税制が使えますか?
 少額減価償却資産の特例とほぼ時期を同じくして、IT投資促進税制が導入されました。これは、平成15年1月1日から平成18年3月31日までの期間に、次の資産を取得した場合に、取得価額の50%を特別償却できる制度です。
1)電子計算機、デジタル複写機・ファクシミリ等を、1事業年度合計600万円以上(資本金3億円以下の場合は、140万円以上)取得した場合(対象資産の詳細は別途ご確認ください)
2)ソフトウエアを1事業年度合計600万円以上(資本金3億円以下の場合は70万円以上)取得した場合
 パソコン(電子計算機)は、耐用年数4年、定率法の償却率43・8%ですから、43・8%+特別償却50%=93・8%(最大)もの償却が初年度にできることになります。少額減価償却資産のように全額は経費になりませんが、かなりの部分が経費処理できます。
 なお、前述の600万円以上あるいは140万円以上の判定の中には、少額減価償却資産や一括償却資産の特例を使った資産は含めないことになっています。
 中小企業者については、30万円未満は経費処理、30万円以上のIT資産についてはIT投資促進税制の対象とするとよいでしょう。

Q9
少額減価償却資産を使う代わりに、税額控除を受ける方法はありますか?
 Q8のIT投資促進税制は、特別償却の代わりに税額控除を選択することもできます。
 税額控除とは、IT投資促進税制の対象資産の取得価額合計に10%を乗じた金額を、法人税額から控除するものです(控除額は法人税額の20%が限度)。
 この場合もQ8と同様に、少額減価償却資産で取得時に全額損金にしたものは税額控除の対象になりません。逆にいえば取得時に全額損金とせず、資産計上して税額控除を受ける手もある、というわけです。

Q10
以前からの規定である取得価額20万円未満の一括償却資産との関係はどうなりますか?
 取得価額20万円未満の減価償却資産で、少額減価償却資産の適用を受けないものについては、一括償却資産の損金算入制度の適用を受けることができます(法人税法施行令133の2)。
 一括償却資産の損金算入制度とは、その事業年度に取得した20万円未満の減価償却資産(通常は10万円以上)で、一括償却を選択した資産について、次の算式により償却を行なっていく制度です。一括償却資産の取得価額の合計額×その事業年度の月数÷36ヵ月
 すなわち、10万円以上20万円未満の減価償却資産については、まとめて3年間で償却しましょうという制度です。
 今年度の税制改正で、中小企業者について30万円未満の減価償却資産は、取得時に全額損金とすることができるようになりましたので、一括償却資産の制度は基本的には使わないことになるでしょう。ただし、あくまでも法人の選択ですから、一括償却資産の制度を選択することも可能です。

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 以上、減価償却資産の取得については、会社の経理の仕方によって、損益や法人税額に与える影響が変わってきます。自社の状況をよく考えて、より有利な方法を選択していくことが肝要です。

〔月刊 経理WOMAN〕