「新・事業承継税制」のことが分かるQ&A
   
作成日:10/21/2008
提供元:月刊 経理WOMAN
  


平成20年10月から施行! 中小企業に朗報!?
「新・事業承継税制」のことが30分で分かるQ&A




 中小企業の事業承継を強力にバックアップする経営承継円滑化法(新・事業承継税制)が、本年10月より施行されています。この制度を使えば、遺留分の取扱いに煩わされることなく、自社株を後継者に相続させることができるようになります。しかも金融支援や相続税の納税猶予が受けられるのです。ここでは、この制度の重要ポイントをQ&Aで分かりやすく解説していくことにしましょう。

Q1:まず新・事業承継税制の概略について教えて下さい。

 新・事業承継税制では、非上場株式等に係る相続税の軽減措置について、一定の適用要件を充たしている場合に、現行の10%減額措置から80%納税猶予に変更されます。減税効果が10%から80%へと大幅に拡充されるとともに、適用対象法人は、株式総数制限が撤廃され、中小企業基本法が規定する中小企業全般へと拡大されたこと、軽減対象となる株式の評価額による制限も撤廃されたことなど、事業承継の際の障害の1つである相続税負担の問題を、抜本的に解決するための手段として注目されています。

 また、事業承継の円滑化のために制定された経営承継円滑化法に基づく改正であることから、相続税法の改正とともに、民法の特例として、遺留分の対象から生前贈与株式が除外されたり、中小企業信用保険法の特例として様々な金融支援を受けられる等、税制以外の点も含めて検討する必要があるでしょう。


Q2:これまでの事業承継税制は、どのような制度だったのでしょうか。

 これまでの制度は大きく次の4つの柱によって構成されていました。


(1)

事業用の宅地について、小規模宅地等特例制度により、最大400㎡までの事業用宅地について相続税評価額の80%を減額。
 

(2)

株式の生前贈与の場合で、相続時精算課税の適用を受ける場合に一定の要件を充たす株式を贈与する際には、通常の65歳以上の受贈者による2500万円までの贈与についての非課税枠について、受贈者の年齢を60歳へ引き下げ、非課税枠を3000万円まで引き上げる特例措置。
 

(3)

自社株式の評価額について、特定同族会社株式等に該当する場合に、自社株式の相続税評価額を10%減額。
 

(4)

相続税の納税資金対策として、相続で取得した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合は、譲渡所得として一律20%の分離課税を選択できる。
 
 今回改正されたのは(3)の部分です。


Q3:これまでの制度ではどのような問題が生じていたのでしょうか。

 中小企業の事業承継については、3つの制約があるといわれてきました。

 まず第1は相続税の負担が重くて、事業承継会社の経営を圧迫してしまうことが多かったことです。事業用資産を相続税の支払いのために換金してしまえば、事業が継続できません。また、非上場株式の場合、株式の評価額が高いからといって、相続税の支払いのために換金したくても、買ってもらえる人はいないのが実情です。新・事業承継税制は、この負担を軽減するために、導入されたのです。

 第2は、金融面の問題です。中小企業の多くは、金融機関からの借入を主たる資金調達手段としていますが、金融機関の多くは、借入の際に社長の個人保証を求めています。そのため、事業承継者に対して、亡くなった先代社長が行なった個人保証の変更を求めます。

 相続の発生により、先代社長の個人財産が相続人に分散されることによって、事業承継者が引き継げる個人保証に限界が生じることもあるでしょう。また、事業承継者が相続人以外の場合には、自社株等の買取りに多額の資金が必要になることもあります。今回の改正で様々な金融支援が用意されているのはそのためです。

 第3は、遺留分(民法が相続人に保証している一定割合の財産のこと)の制約です。

 亡くなった先代社長に複数の相続人がいる場合に、遺留分の制約のため、事業承継者に事業用資産のすべてを相続させることが困難になるケースが少なくありません。そのため株式が分散して、経営が不安定になることも少なくなかったのです。今回の改正で、民法の特例として、遺留分の制約が排除されたのはそのためです。


Q4:新・事業承継税制の適用要件を教えて下さい。

 非上場株式等に係る相続税の80%納税猶予を適用するためには、次の6つの要件のすべてをクリアしなければなりません。


(1)

適用範囲は、中小企業基本法に定める中小企業であること。具体的には、製造業等は資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は資本金1億円以下または従業員100人以下、小売業は資本金5000万円以下または従業員50人以下、サービス業は資本金5000万円以下または従業員100人以下。
 

(2)

発行済議決権株式総数の2/3までが対象(超えた部分には適用がない)。
 

(3)

持株条件として、イ.被相続人が会社の代表者で、同族関係者を含めて発行済議決権株式の50%超を保有し、同族内で筆頭株主であったこと、ロ.事業承継者である相続人が会社の代表者になり、同族関係者を含めた発行済議決権株式の50%超を保有し、同族内で筆頭株主になること。
 

(4)

雇用を8割以上維持しながら、事業承継者が代表者として5年間事業を継続し、相続した納税猶予対象株式を継続して保有すること。
 

(5)

納税猶予対象株式をすべて税務署に担保として提供すること。
 

(6)

租税回避目的ではないこと。
 

Q5:Q4の(4)にある5年間の事業継続要件についてもう少し詳しく教えて下さい。

 事業継続要件は、3つの柱から構成されています。すなわち(1)雇用を8割以上継続すること、(2)代表者を5年間継続すること、(3)納税猶予対象株式を継続して保有すること、です。

 この3つの要件のすべてをクリアしなければ、納税猶予の適用を解除され、それまでの利子税を含めて、全額を納税しなければならなくなります。

 とくに注意していただきたいのは、「雇用の8割維持要件」です。新・事業承継税制の改正は、事業継続が困難になった中小企業に勤務する従業員を保護することも目的の1つと考えられていますので、雇用の8割維持が要件として入っています。

 従業員数の多い中堅企業はともかく、家族経営の零細企業にとって、雇用の8割維持は非常に困難な条件です。たとえば、両親と子供2名、従業員1名の5名で経営している場合、相続が発生して4名になっても8割の維持はできています。しかし、その5年以内に再度相続が発生して3名になった場合、雇用が75%になり、納税猶予の適用から除外されます。

 この場合の維持すべき雇用人数の算定は、常時使用する従業員数となっていますので、いわゆるパート等の非正規従業員は対象になりません。

 また、「納税猶予対象株式を継続して保有すること」の要件には、期間が定められていませんので、対象株式を一生涯保有し続けなければなりません。


Q6:「租税回避目的ではないこと」とはどういう意味でしょうか。

 租税回避というのは、税法が制定されたときには想定していなかった取引方法を使って税負担を減らすことです。

 一般的には節税と混同されていますが、節税は、法律に書いてある様々な特例措置を使って税負担を減らすことなので、完全に合法ですが、租税回避は、法律にやってはいけないと書いていないグレーゾーンを使うものなので、完全に合法だとはいえません。

 たとえば、ペーパーカンパニーを作って、自分の財産をペーパーカンパニーに移して、相続を株式で行ない、納税猶予の適用を受けても、税務調査等で租税回避目的であることが分かれば、適用は取り消されてしまうのです。

 また、納税猶予の対象法人は、同族会社ですから、同族会社の行為計算の否認規定(税の負担を不当に減少させていると認められる行為がある時は、税務署長がその行為、計算を否認することができるという規定)を使って否認される場合も考えられます。


Q7:民法の特例はどのような制度ですか。

 経営承継法に基づいた民法の特例は、次の2つの柱から構成されています。

(1)生前贈与株式を遺留分の対象から除外

 生前に贈与されている財産のうち、自社株式については、民法上の相続財産から完全に除外されるということです。

 生前に贈与された財産であっても、民法上の相続財産を考える場合には、相続人の間に過去の生前贈与と相続時の財産分与とを合わせた公平を図るためには、生前贈与分も相続財産に含めて計算した方が実質的な公平が図れる場合があります。

 相続税法とはリンクしない部分も多いのですが、民法は、そのようなケースでも相続人間の公平を図るために、遺留分の対象に生前贈与を含めていたわけです。しかしこの特例では、生前贈与された自社株式については、遺留分の対象から外すことになりました。

(2)生前贈与株式の評価額を贈与時に固定

 後継者が自社株式の一部の贈与を受けた後に、後継者の努力によって自社株式の株価が上昇したとしても、それは後継者の努力によるものなのだから、その部分は民法上の相続財産には含まれないとするものです。

 後継者の貢献と先代の貢献とを明確に区別できる点で、後継者に有利な特例とも見えますが、後継者が経営を失敗して株価が下がってしまったときには、特例を適用しないという選択が考えられます。

 なお、遺留分についての特例措置の適用を受けるためには、遺留分権利者全員との合意に基づいて、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可を得ることが必要になります。


Q8:遺留分とはどういうものですか。

 遺留分とは、相続財産のうち、相続人が最低限受け取ることができる固有の権利のことをいいます。遺言がある場合であっても、遺言に不満のある相続人は、法定相続分の1/2まで受け取ることができるのです。法定相続分は、配偶者が1/2、子供(子供が亡くなっている場合は代襲相続人として孫)が残りの1/2を人数で等分した割合になります。

 たとえば、奥さんと子供2人(長男、長女)を残して亡くなった事業主が、事業承継者である長男に全財産を譲るという遺言を書いていたとしましょう。長女が遺留分を要求(遺留分減殺請求といいます)した場合、長女の法定相続分は相続財産の1/4ですから、相続財産の1/8までは長女の遺留分として権利が認められることになります。


Q9:新・事業承継税制に対応する金融支援にはどのようなものがありますか。

 次の3つの制度融資が平成20年10月1日から創設されています。

(1)法人による自社株式等の取得に係る制度融資


・貸付機関…

日本政策金融公庫

・貸付対象…

安定的な経営権を確保し、事業を継続させていくために株主等から自己株式等を取得する法人

・貸付使途…

事業承継を行なうために必要な資金

・貸付限度…

7億2000万円

・貸付期間…

15年以内

・貸付金利…

特別利率

(2)後継者個人による経営権安定化のための制度融資

(3)M&A支援に関する制度融資

 (2)、(3)についても、(1)と条件等はほぼ同じ内容です。

 詳しくは全国の商工会議所、商工会、都道府県中小企業支援センターなどに設置された事業承継支援センターや、最寄りの金融機関に問い合わせてみてください。


〔月刊 経理WOMAN〕