「会社を元気にする」経営計画の作成ノウハウ
   
作成日:02/22/2010
提供元:月刊 経理WOMAN
  


経理主導で新年度の青写真を作ろう!!
「会社を元気にする」経営計画の作成ノウハウ




 いよいよ新年度が目前に迫ってきました。この厳しい時代を乗り切るためにも「経営の羅針盤」ともなる経営計画を作成したいものです。ただし、画に描いた餅のような計画や、社員の士気が上がらないような計画では作る意味がありません。経営計画は実現可能なもので、しかも社員の士気が上がるような内容でなければなりません。ここでは「会社を元気にする」経営計画作成のノウハウをアドバイスします。

◆「経営計画」は社長の意図を末端まで浸透させる道具だ

 人間には素晴らしい能力が与えられています。自分で理想を掲げ、夢を持ち、それに向かって万難を排して努力をすれば、必ずやその夢はかなえられるし、思ったとおりの人生を送ることができる、というものです。ところが残念なことに、この法則を知る人は少なく、それを実行している人はなお少ない、というのが現実です。

 この法則が正しければ、人間の集合体である企業も同様の法則に支配されるはずです。ところが、企業はさまざまな意識を持った人の集合体ですので一筋縄ではいきません。企業の夢(つまりは経営者の夢)を実現するためには、「経営者の意図」を確実に末端まで浸透させる仕掛け、仕組みが必要なのです。それこそが「経営計画書」なのです。

 すなわち、経営計画書には、社長の意図する行動計画(アクションプラン)が明示され、それを具体的に実行した場合の成果(この成果には財務的な成果、すなわち売上高や利益目標などだけでなく、その前提となる非財務的な成果、たとえば客単価や客数の目標、仕損率〈不合格品の発生率〉などの目標)が目標として記載されます。当然、行動計画は、経営理念やビジョン、経営戦略から導かれるものです。

 よく、銀行から「経営改善計画」の提出を求められ、経営計画書は融資のためにあるように誤解されている方もいらっしゃるようですが、そうではありません。「経営計画」は、社長が社長の意図を末端まで浸透させ、成果を手にするための道具なのであり、社長のためにあるといっても過言ではないのです。


◆「良い経営計画」と「悪い経営計画」の違いはどこにある?

 人間の「念」エネルギーは強く、そして素晴らしいものがあります。しかし、一般的には、それを一点に集中させることが難しいのも事実です。小学校時代にルーペで紙を燃やす実験から学んだように、焦点を合わせ集中させることが燃やすためには必要です。ところが、人間の意識は拡散しやすく、まして、多数の人間が集合し、協働している会社という組織においては、その傾向が顕著になります。各人がさまざまな方向を向いていては、うまくいくものもうまくいきません。

 会社が小さいうちは、社長がすべて目を光らせ、いちいち指図することもできるでしょう。しかし、一定規模以上になれば、それも難しくなります。そこで、前述したように、社長の意図を確実に浸透させる仕組みとしての経営計画が不可欠となるのです。これがなければ、社長の意図するところを浸透させることは困難でしょう。

 つまり、ピンボケ状態で経営を続けざるを得なくなるのです。これでは意図した成果を手に入れるのは望むべくもありません。

 少人数でやっているから経営計画はいらない、という誤解もありそうです。しかし、社長自身を律するものがあるのとそれがない場合では、成果は大きく異なってしまいます。「人間は忘れやすい動物」であり、当初の決意と比べてその後の行動が大きくぶれないためにも、経営計画は必要なのです。

 ただし、経営計画には「良い経営計画」と「悪い経営計画」があることを知っておく必要があります。



 一般に経営計画書というと、利益計画書などの数字計画の部分を思い浮かべることでしょう。とくに経理関係の方にその傾向が顕著と言えます。しかし、数字計画だけの計画で社長の意図が伝わることはありません。

 私は、経営数値(貸借対照表や損益計算書等)は結果であって、これを良くするには、決算書を眺めているだけではダメで、原因次元を変革していかなければならないと考えています。

 もちろん、決算書には課題や問題を発見する糸口はあります。しかし、その改善のために具体的に意思決定し、行動しなければなりません。つまり良い「経営計画書」とは、このように個別具体的な行動指針が明確に記載され、社員個々人がそれを理解し、行動に移せるものでなくてはならないのです。その意味でも、単なる数字だけの計画は悪い「経営計画書」の例といえます。人は数字では動かないからです。


◆良い「経営計画」は こうして作ろう

 良い「経営計画」とは、社長の想い(いわば魂)のこもったものでなければなりません。そのためには、数字計画だけではなく、前述したように、「経営理念」「ビジョン」「方針」「戦略・戦術」などが明確に表現されているものであるべきです。

 本来はこれらの要素をいちいち説明すべきでしょうが、ここでは「戦略」に絞って解説しましょう。

 とくに、昨今のような経済縮小期においては同業者間、あるいは異業種との競争が激化してきます。そのための対策である「競争戦略」の枠組みを明らかにしておくことが不可欠です。2500年も前に孫子は、『孫子』(謀攻編)で次のように指摘しています。

 「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らずして己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし」

 これは現代の分析(ページ下のワンポイントレッスン参照)と通ずるものであり、経済・社会環境の変化と自社の強みと弱みを確実に分析し、それによって打つべき手を取る重要性を示しています。

 しかし一般には、社会変化に興味を示さず、自社分析も行なわず、今までと同じことを漫然と繰り返している企業の方が多いのではないでしょうか。それでは残念ながら、孫子が言うように「百戦して殆うし」になってしまいかねません。また、次のようなたとえで「戦略」の重要性が説明できます。



 目の前に二つの池があるとします。一方の池は魚がたくさんいて、もう一方はほとんどいないとします。経営者は、「魚がいる池」を選ぶことを決定し、その中で釣り方や道具を工夫すれば良いのです。

 しかし、得てして、「魚のあまりいない池」を選択し、その中で社員を叱咤激励するのが社長の役割と錯覚している方もいらっしゃるようです。これでは、「労多くして益なし」です。戦略の間違いは、戦術ではカバーできないのです。

 この意味でも、今後の中小企業経営者は、「哲学」と「戦略」を併せ持つことが不可欠になってくるでしょう。


◆「経営計画」は作ることが目的ではない

 経営計画は作ることが目的ではなく、使いこなして、経営上の成果を上げることが目的です。そのためには、経営計画書の内容を、会議や朝礼等での読み合わせなどを通じて浸透させていくことが不可欠となります。この「浸透」のためには、人間の潜在意識に相当する「企業風土」を良好に醸成しておくことが必要不可欠です。

 概して、悪い風土の会社では、社長だけが素晴らしい理念やビジョンという種を蒔いても立ち枯れしてしまうものです。これに対して、良い風土の会社に種を蒔けばすくすくと育ち、やがて芽が出て花が咲き、実がなるものなのです。経営計画書を作成してもなかなか浸透しない、うまく伝わらないと感じたら、「企業風土が良くないのでは?」と疑ってみることが必要です。

 また、行動計画には各々数値目標を設定し管理します。この数値目標は、行動計画が妥当であったのか、何か課題や問題はないのか、改善すべきことはないか、などを検討するために不可欠です。

 そのためにも、社内に業績管理システムを構築しておかなければ、せっかくの経営計画書は画に描いた餅になってしまうおそれが大きいのです。経営計画を使いこなすためには、このように「良好な企業風土の醸成」と「業績管理システムの構築」が不可欠な要素になります。


◆後継者入社をきっかけに 経営計画を策定

 社長が本気で作り上げた経営計画はどの程度の効果があるのでしょうか。

 当事務所では、社長、後継者、財務管理者の3人を1チームとして、5日間コースの「経営戦略・経営計画策定講座」を開催しています。この成果として、具体的な方針等が詰まった経営計画書ができあがります。これに参加したA社は、経営計画書に基づき経営を実行したところ、1年間で利益が約3倍となり、2年目である現在でも増益傾向にあります。



 A社では、従来から数字主体の計画を作成していましたが、後継者が入社したことをきっかけに、本格的な経営計画策定に取り組みました。同社では、従来から、商品別利益分析などを実施していたため、一般の企業より課題がつかみやすかったのでしょう。策定段階で、このようなデータを検討しつつ、今まで、見えなかったものを見ようとし、やるべき課題を絞り込んでいったのでした。

 また、この策定した計画は、経営計画発表会で全社員に周知しました。この発表会での社長の挨拶は、自信に裏付けられ、明るい未来を想像できる、じつに感動的なものでした。さらに社長は経営計画を常時携帯し、当初立てた行動計画が確実に行なわれているか、やり方は良かったのかを常に反省し、行動計画にフィードバックしているのです。じつにうまい使い方です(紙数の関係で、ここではA社の実例を簡単にご紹介しましたが、詳しくは拙著『夢をかなえる経営計画』をご参照いただければ幸いです)。


◆経理はこんな役目を果たせ

 経理担当者の主要業務は、会計処理を行ない、その結果として、「正しい決算書」を作ることであるといえます。しかし、計画経営を志向している会社においては、それだけにとどまらず、管理会計や業績管理に関するデータの収集や分析も、必須のものとなるでしょう。

 たとえば、経営計画を立案する場合には、次のようなさまざまなシミュレーションを行ないます。



どの商品の売れ筋が良いのか?


限界利益率の高い商品、低い商品は何か?


伸び盛りの得意先、低減している得意先はどこか?


人員を採用した場合のコスト負担はどの程度か?


設備投資をしたらコスト負担・資金負担はどの程度増加するのか、それに耐えられるのか?

 この基礎データはほとんどが経理担当者あるいは関連する業務担当者から提出すべきものです。

 また、計画を立案したら、業績管理を行なわなければなりません。業績管理とは、当初の計画と実績に差異がある場合に、その原因を追究して、活動を是正していくことを意味します。このためには、単に会計数字(財務データ)だけでなく、その前提となる非財務データも収集分析することが必要です。

 たとえば、変動費率を削減するために、仕損率を低下させることを目標として選択したら、仕損率のデータを全社、部署、工程別等に分けて収集分析することが必要になってくるのです。

 その意味で、これからの経理は「経営支援」の役割の重要性がますます増してきます。担当者にとっては、トップ・マネジメントのサポーターとなるのか、単なる“帳簿屋”となるのか、重要な岐路に立たされていると言っても過言ではありません。

 常に外部環境変化に対するアンテナも立てつつ、管理会計等の知識を深めることがますます求められてくるでしょう。経理担当者に進化と深化が求められ、その真価が問われる時代が到来したといえるのです。


 
ワンポイントレッスン

SWOT分析

 SWOT分析とは、1960年代に考案された、組織のビジョンや戦略を企画立案する際に利用する現状分析手法の一つです。SWOTは、

 Strength(強み)
 Weakness(弱み)
 Opportunity(機会)
 Threat(脅威)

の頭文字を取ったもの。目標達成のために、自社の経営資源や経営環境について「強み・弱み」や「脅威・機会」を分析し、どのように弱みを克服するか? どのように機会を利用するか? どのように脅威を取り除くか? を検討します。 たとえば「ライバル社と比較したときの自社の強みと弱み」等々を検討することで、現状分析や戦略立案のために、経営の問題点が整理され、解決策を見つけやすくなるメリットがあります。
 


〔月刊 経理WOMAN〕