「外形標準課税」のことが丸ごと分かる30分セミナー
   
作成日:02/25/2004
提供元:月刊 経理WOMAN
  


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「外形標準課税」のことが丸ごと分かる30分セミナー






 平成16年度から、資本金1億円超の法人を対象に「外形標準課税」が導入されることになりました。

 外形標準課税とは、所得などの利益に応じてではなく、資本総額や売上高など外形的な事業規模に応じて課税する方法です。

 そこでここでは、そもそも外形標準課税とは何か、どんな企業がどんな基準で課税されるのかなど、外形標準課税の概要を分かりやすく解説します。


●「外形標準課税」って何?

 東京都のいわゆる“銀行税”として注目を集めた外形標準課税ですが、事業税を“外形”をもとに課税するかどうかの議論の歴史はかなり古く、昭和24年にアメリカのコロンビア大学教授カール・シャウプ博士を始めとする税制使節団によって勧告された、「シャウプ勧告(戦後の税制の基礎となった)」にまで遡ります。

 そもそも外形標準課税とは、資本金や売上高、従業員数、付加価値額等といった“客観的に明らかである企業の外観”をもとに課税する方法です。

 今回の法人事業税の外形標準課税は、従来9・6%で課税されていた所得に対する税率を、その4分の3にあたる7・2%に引き下げ、残りの4分の1にあたる部分を所得以外の“外形”による基準(資本割・付加価値割)に置き換えたものと考えることができます。



●外形標準課税が導入される目的

 外形標準課税は、次のような目的で導入されます。

1)課税の公平を図るため

 そもそも法人事業税とは、「企業が経済活動を行なうために、地方自治体から提供される各種の行政サービスに対して経費の負担を求めるもの」と考えられ、いわゆる応益課税(企業が享受する利益の大きさに応じて課税する。つまり、企業が行政サービスを享受する度合いに応じて税を負担してもらおうというもの)としての性格を持つといわれています。

 しかし、現行の法人事業税は、収入金額を基準として課税される一部の企業を除いては、“所得”に対して課税される仕組みとなっています。つまり、簡単にいえば利益の出ている企業が法人事業税を負担し、赤字である企業は法人事業税を負担していないということになります。

 そうなると、日本の企業の約7割は赤字法人であるといわれているため、ほとんどの企業は法人事業税を負担しないことになります。

 一般的に、事業活動が大きくなればなるほど、地方自治体から享受する行政サービスは大きくなると考えられますが、所得のみを基準とした従来の課税方法では、事業規模の大きな企業でも所得がなければ法人事業税をまったく負担せず、規模の小さな企業でも所得が多ければ法人事業税を多く負担しなければならないことになり、企業が享受する行政サービスに対応しないことになっていました。

 つまり、法人事業税が応益課税として各種の行政サービスの経費負担をそれぞれの企業に求めることを目的としていながら、所得を課税標準とする現行の課税方式では、その企業が享受する行政サービスの度合いを適切に反映していないのではないかという矛盾が生じていたのです。

 そこで、所得のみを課税標準とするのではなく、それ以外の基準によって法人事業税を算定する方法を取り入れることで、課税の公平を図るとともに、応益課税としての法人事業税の性格を明確化しようと考えられているのです。

2)景気に左右されずに税収を確保するため

 地方自治体が提供する行政サービスは、福祉、学校教育、道路、河川等の社会基盤の整備から消防等まで広範囲にわたります。これらを安定的に提供するためには、地方自治体の自主財源としての税収を安定して確保する必要があることはいうまでもありません。

 しかし、その地方自治体の財源である地方税のうち、約4分の1を占める最大の税収源である法人事業税は、ここ数年の経済の低迷から、平成元年を基準としてみると約6割にまでその税収が落ち込んでいるのです。

 所得や収入を課税標準として計算する法人事業税は、景気がよくなれば税収が増える反面、逆に景気が悪くなれば税収が減ってしまうため、税収が景気の変動に大きく左右されやすいといった側面を持っています。

 そのため、地方自治体が、企業あるいは国民の必要とする行政サービスを安定して提供するために、景気の変動に影響されない新たな基準を導入する必要性があったのです。

3)経済の活性化を促進するため

 近年の景気低迷で、各種のリストラや経費削減努力をする企業が増えています。しかし、これらの努力によって財務体質を改善しても、それによって増加した所得に対して法人事業税が課税されてしまうというのが現状です。

 それでは、企業が経費削減し、経営改善していこうとしても、その努力の成果が薄まってしまいます。

 そのため、法人事業税の課税標準を所得だけでなく、その他の基準も導入することによって、少しでも努力した企業が報われるような税制に改革して、経済の活性化等を促進しようという趣旨も外形標準課税の導入には込められているのです。



●対象となる企業と課税の方法

 外形標準課税の対象となるのは、原則として、平成16年4月1日以降に開始する事業年度末日の資本金、または出資金が1億円超の企業となります。

 つまり、資本金または出資金が1億円以下の企業については外形標準課税の対象とはなりません。外形標準課税の対象とならない企業は、従来どおり所得のみを課税標準として法人事業税が課税されることとなり、税率も従来と同じで下がらないことになります。

 総務省の試算では、全国約246万社のうち、約3万1000社が外形標準課税の対象になると考えられています。

 外形標準課税の対象となった企業は、三つの基準によって法人事業税が計算されます。その基準とは、従来と同じ所得を基準とするもの、新たに加えられた付加価値額を基準とするもの、資本等の金額を基準とするもので、それぞれに対して図表1のような税率(標準税率)で課税されます。

図表1 現行の事業税と外形標準課税導入後の税率比較


 そして、最終的に外形標準課税による法人事業税は、これら三つの基準によって計算した税額を次の所得割、付加価値割、資本割として合算して納めます(図表2参照)。

図表2 外形標準課税による法人事業税の算出方法


a)所得割

 所得割の課税標準は所得及び清算所得で、従来の法人事業税の算定方法と同様です。

b)付加価値割

 付加価値額を課税標準とするもので、収益配分額に単年度損益を合算したものです。単年度損益がマイナスの場合には、収益配分額からマイナスの単年度損益を控除して計算することになります。

 この付加価値額は、1)報酬給与額(各事業年度において事務所・事業所の従業者等の労働に対して支出される金額の合計)、2)純支払利子(支払利子から受取利子を引いた額。マイナスとなる場合は「0」)、3)純支払賃借料(土地・建物に係る支払賃借料から受取賃借料を引いた額。マイナスとなる場合は「0」)の三つを合計して算定されますが、1)報酬給与額については雇用安定控除等の特例措置が設けられています。

c)資本割

 資本等の金額を課税標準とします。

 外形標準の対象企業を判定するのは資本金及び出資金のみですが、外形標準課税の対象となった企業の資本割を計算するにあたっては、資本金・出資金だけでなく、株式払込剰余金や合併差益等といった資本積立金を含む「資本等の金額」が課税標準とされますので注意が必要です。



●外形標準課税が企業に与える影響

 外形標準課税は、地方自治体の行政サービスにおける経費負担を広く浅く求めるものであり、その趣旨からも赤字企業については必然的に税負担増になると思われます。

 というのも、外形標準課税の対象企業となった場合には、最低でも資本割に対する法人事業税を負担することとなるからです。

 しかし、経常的にかなり多くの所得がある法人については、所得に対する税率が引き下げられたために結果として増税となることも減税となることもあり、一概に税負担が増すとはいい切れません。

 要するに、税率の引下げによる所得割の税負担減部分が、付加価値割と資本割にかかる税負担を上回るかどうかを今後は検討する必要があります。

 とくに、資本金または出資金1億円前後の企業が、資本政策上資本金または出資金の増減資を検討する場合には、事業規模に変更はなくとも、資本金や出資金の多少により年間租税コストが大幅に変わる可能性がありますから注意してください。

 また、すでに公表された平成16年度の税制改正大綱には、平成13年4月以降の無償減資(資産等の返還を伴なわない名目的減資)等の金額を、2年間に限り資本割の計算上資本等から控除するという特例措置が改正案として盛り込まれています。

 この特例措置が成立すると、資本割の計算では課税標準となる資本等の金額から、税務上資本積立金として把握される無償減資部分を控除することとなり、資本割の税額が大幅に減額されることになります。

 近年、財務数値の改善等のため無償減資による欠損補填をする企業が多数ありますが、改正案では対象となる無償減資等の範囲が平成13年4月以降のものと過去に遡っていることや、結果として法人住民税の均等割等で使用する資本等の金額とも相違することになるなど実際の計算には留意する必要があり、過年度に無償減資等を行なっている企業については、今後どのように法案が成立していくのか、その動向についても十分注意する必要があるでしょう。

 
ワンポイント情報 法人事業税って何?

 法人事業税とは、企業の事業活動に対して都道府県税としてかけられる税金の一つです。電気ガス供給業や生保・損保事業などはその収入金額に課税され、それ以外の一般の企業等は所得に課税されることになっています。国税である法人税に対して、法人事業税は地方税ということになりますが、地方税としては、法人事業税の他に、法人住民税があります。

 なお、本文にもあるように、この法人事業税に関しては、平成16年度から資本金1億円超の法人を対象に外形標準課税が導入されます。
 

〔月刊 経理WOMAN〕