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給与計算─こんなイージーミスに要注意
作成日:
04/20/2009
提供元:
月刊 経理WOMAN
社会保険料の控除モレから手当の支給ミスまで
給与計算─こんなイージーミスに要注意!!
「改正前の料率で社会保険料を計算していた」「扶養家族が増えたのに手当の金額を変更していなかった」
給与計算というと、一見、単純で簡単にできそうなイメージをもたれることがあります。しかし実際は、社会保険のしくみや労働法、所得税、住民税といった幅広い知識が必要とされ、1円のミスで従業員からの信頼を失う、極めて繊細で重要な仕事といえます。
とはいっても、給与計算のミスは、事前に注意すべき点をリストアップして、そのチェックリストに基づき慎重に処理を進めれば防げるものばかりです。
ここでは起こしがちなミスの具体的事例を交えながら、給与計算ミスを防ぐためにはどのような点に注意すればよいのか、わかりやすく解説していきます。イージーミスを防ぐ参考にしてください。
◆給与計算の流れーミスを防ぐポイント
まずは給与計算の流れとチェックポイントを見ておくことにしましょう。
(1)人事勤怠情報の収集
給与計算の締め日までに、入社、退社、扶養家族の変更、昇給、降給、休職等の人事情報を収集します。同時に、前月からの引継ぎ事項も忘れずに確認します。そして締め日後、決められた日までにタイムカードや欠勤、遅刻、早退、有給休暇等の勤怠データを回収します。経理への報告を後回しにしがちな従業員も多いので、アナウンスをまめに行ない、きちんとスケジュール管理を行なうことが大切です。
(2)従業員情報の変更
給与ソフトを使用している場合、ソフトへの入力作業に入ります。
収集した情報に基づき、従業員情報の新規登録や設定変更をします。とくに新しく入社した社員の新規登録は、慎重に行なってください。たまに氏名と所属だけ入力しておいて、生年月日や入社年月日等をきちんと入力していないケースや、社会保険の標準報酬月額を入力せずに保険料を直接手入力しているケースが見られます。
後述する介護保険料の控除もれや有給休暇の付与日数の管理ミス、社会保険料の控除間違いの原因にもなりますので、マニュアルに沿ってすべての情報を正確に入力しましょう。
(3)勤怠入力
出勤、欠勤、労働時間、時間外労働、休日労働、深夜労働、有休、遅刻・早退等、提出されたタイムカードや出勤簿、各種申請書に基づき、勤怠データを給与ソフトに入力します。
最近では勤怠システムのデータをそのまま給与ソフトに取り込むケースも増えていますが、取込みに不具合が生じることもありますので、完全にシステム任せにすることなく、チェックすることが必要です。
(4)支給項目の変更
昇給、降給時の基本給の改定や扶養家族の増減、引越し等による手当の変更、途中入社・退社時の日割計算を行ない、支給額を修正します。
時間外・休日・深夜労働の割増賃金については、勤怠データに基づき、割増賃金の計算に入れなくてよい諸手当(
注1
)や、時間あたり単価の割増率(
注2
)に関する労働基準法を踏まえ、就業規則に沿って計算をしてください。
注1
家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
注2
時間外労働1.25倍、休日労働1.35倍、深夜労働1.25倍(時間外労働で深夜にまで及んだ場合は1.5倍)
(5)控除項目の変更
控除項目には健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税、組合費、旅行積立等があります。
ここでは社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金)の控除のタイミングに要注意です。入退社時の控除、定時決定、随時改定の処理等、社会保険の基本的なしくみを押さえておく必要があります。控除額を間違えていた結果、労使折半負担の保険料を会社が多めに負担していた(またその逆も)というケースもよく見られます。
◆起こりがちなミスの具体的事例と対処法
では次に、初心者が起こしがちなミスについて、ケース別に具体例をあげながらご紹介しましょう。
新しく社員が入ったとき
●ミス
社会保険料を入社月に支給される給与から控除してしまった。
社会保険料は入社月の翌月に支給される給与から控除(「前月分」の保険料をその月の給与で控除)します。雇用保険料は入社月から(給与支給のつど)控除します。たとえば、4月1日に入社した場合(20日締め、25日払いの会社)は次のようになります。
入社月 4月25日支給の給与……
雇用保険料のみ控除し、社会保険料は控除しない。
入社翌月 5月25日支給の給与…
雇用保険料控除、社会保険料(4月分)の控除を開始する。
●ミスへの対処法と今後の対策
支給後にミスに気づいたときは、再計算して差額を支給するか、または本人の了解のもと、来月の給与で社会保険料をゼロにします。なお、調整は必ず社会保険料の項目内で行なってください。社会保険料は所得税計算とリンクしますので、社会保険料の項目でないところで差額調整を行なうと、所得税額が正しく計算されませんので、注意が必要です。
退職者が出たとき
●ミス
月の途中で退職したのに、退職月分の社会保険料を控除してしまった。
社会保険料は月単位で考えます。月の途中で入社した場合はその月は社会保険に加入していることになり、保険料も1ヵ月分かかります。
一方、月の途中で退職した場合は、その月は保険料はかかりません。給与締め日と混同する方がいますが、締め日は忘れて「末日退職以外はその月の社会保険料はかからない」とシンプルに覚えてください。たとえば、4月20日退職の場合は次のようになります。
・
20日締め25日払い…最終給与(4月25日分支給分)で「3月分」の社会保険料を控除する。
・
末締め翌月10日払い…最終給与(5月10日支給分)では社会保険料は控除しない(4月分の社会保険料はかからないため)。
注
雇用保険料は給与支給のつど控除します。
●ミスへの対処法と今後の対策
最終給与支給後に間違いに気づいた場合は、至急退職者へお詫びをしたうえで、すみやかに再計算をし、差額を返金します。間違っても控除してしまった社会保険料をそのまま返したりしないでください(所得税額も変わってきますので)。源泉徴収票も忘れずに修正します。
諸手当の変更
●ミス
・
住所変更があったが、通勤費の金額を修正するのを忘れていた。
・
扶養家族の設定変更はしたが、家族手当の金額変更を忘れていた。
住所変更については、新住所とともに新しい通勤費を同時に申請してもらいます。なお、マイカーや自転車通勤者に対して通勤費を支給している場合は、片道の通勤距離に応じて所得税の非課税限度額が定められており、限度額を超過した分は全額非課税とならないケースもあるので、注意が必要です。
なお、電車やバスの場合の非課税限度額は10万円です。
結婚、離婚、配偶者の出産等、扶養家族の増減がある場合には、従業員情報の変更を行なうほか、賃金規定の内容に沿って、家族手当の金額も修正します。なお、前述したとおり家族手当は割増賃金の計算に入れなくてもよい手当ですので、家族手当が変更されても、割増賃金の単価は変わりません。
●ミスへの対処法と今後の対策
引っ越しや結婚、離婚、出産等による扶養家族の変更に関し、事実関係を確認したうえで、場合により過去にさかのぼって手当金額を再計算し、差額を調整します。
なお、本人の申請が遅れたことによる場合は、就業規則、賃金規程に基づき、会社への申請手続きについて再度確認し、再発防止に努めます。
社会保険料の改定
●ミス
・
40歳になった社員から介護保険料を控除するのを忘れていた。
・
改正前の旧保険料率で計算をしてしまった。
社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金)と雇用保険料の計算においては、「40歳、64歳、65歳、70歳」の4つの年齢に注意してください。
40歳
誕生月(誕生日の前日が属する月)の翌月から介護保険料の控除を開始する。
64歳
4月給与時に64歳の人(その年度に65歳になる人)は、以後の給与からは雇用保険料を控除しない。
65歳
誕生月の翌月に支給する給与以降、介護保険料を控除しない。
70歳
誕生月の翌月に支給する給与以降、厚生年金保険料を控除しない(70歳の誕生日の前日で厚生年金保険資格喪失)。
保険料率については、「4月、5月、10月」の3つの月に注意します。
4月支給の給与:
介護保険はその年により3月分から、料率が変更されることがある。
5月支給の給与:
健康保険は年度により4月分(健康保険組合により3月分)から、料率が変更されることがある。
10月支給の給与:
年1回の定時決定(算定基礎届)による社会保険料の変更。また、同時に厚生年金は平成29年まで毎年9月分から保険料率が変更される。
この3つの月以外にも随時改定(月額変更)の場合、昇降給月から5ヵ月目に支給される給与から社会保険料を改定します(社会保険料の変更は4ヵ月め)。雇用保険料と異なり、固定賃金額の変更があっても社会保険料はすぐには改定されませんので、注意してください。
●ミスへの対処法と今後の対策
事後ミスに気づいたときは、社会保険料の項目内で差額調整します。給与ソフトにもよりますが、通常、生年月日や社会保険の標準報酬月額を正確に入力しておくと、該当月・年齢になった際、変更通知画面が表示されます。この機能を利用すれば、控除もれや変更ミスもかなりの割合で防げるでしょう。
賞与を支給するとき
●ミス
賞与支給月に退職した社員の賞与から社会保険料を控除してしまった。
賞与からも毎月の給与と同様、社会保険料を控除します。給与とは控除の仕方が少し異なり、賞与額から1000円未満の端数を切り捨てた額(健康保険は年度累計で540万円、厚生年金保険は1回150万円が上限)に、保険料率を掛けて保険料を計算します。
ここで注意すべきは、社会保険に加入している月に支払われた賞与において、保険料を控除するということです。よって、月の途中で退職した社員に対し、その月に賞与を支払った場合は、社会保険料は控除しないということになります。たとえば、6月25日に賞与を支給した場合は次のようになります。
・
6月20日退職:社会保険料は控除しない。
・
6月30日退職:社会保険料を控除する。
また、所得税の計算においても賞与に対する源泉徴収税額の算出基準を使用し、毎月の給与とは計算の仕方が異なるので注意が必要です。
なお雇用保険料は、賞与の総支給額に保険料率を掛けて控除します。
●ミスへの対処法と今後の対策
雇用保険料のみ控除し、再計算のうえ、本人へ差額分を返却します。
給与ソフト上で退職日を入力しておけば防げる場合もありますが、ソフト任せにせず、事前に賞与に関する社会保険料の控除の仕方、所得税の計算方法を頭に入れて賞与計算を行なうことが大切です。
◆ミスを防ぐための日ごろの心がけ
給与計算のミスを防ぐためには、日ごろから次のような点に気を配りましょう。
(1)事前の段取りに気を配る
勤怠データや住所、扶養家族等に関する変更申請をできるだけ早めに収集し、ゆとりをもって計算を行なうようにします。支給日前後に土日祝日が入って給与計算期間が短くなる月もあります。そういう場合は前もって各社員に提出日時の厳守を伝え、給与計算時に慌てることのないようスケジューリングをします。
(2)チェックリストは必ず作成する
給与計算前に用意する書類・データ、そして計算上誤りやすい点をリストアップして、毎月の給与計算時に必ずチェックするようにします。
それでもミスは起こってしまうものです。ミスが起こってしまったら、必ずその原因を調べ、チェックリストに確認すべき情報を追加しておきます。慣れてくると頭の中で処理を進めてしまうことがありますが、そうすると必ず間違いが起こります。
また、何かの事情で別の人が給与計算をすることになっても、チェックリストを使い対応可能なようにしておきましょう。
(3)給与ソフトを使いこなす
残業代の自動計算、一定年齢に達したときの保険料控除の開始・終了や随時改定(月額変更)の通知等、給与ソフトには給与計算処理を効率化する機能が数多くあります。マニュアルを見て給与ソフトの機能を十分に確認し、使いこなすことが重要です。
しかし給与ソフトには、次のような思わぬ落とし穴もあります。
・
個人マスター情報を変更したら、確定していた支給金額が変わってしまった。
・
標準報酬月額が入力されておらず、随時改定(月額変更)の通知がされなかった。
・
給与の明細項目の設定を誤って社会保険料対象外(または課税対象外)にしていた。
(4)1人では行なわない
給与計算担当者が事業主や経理担当者1人だけ、という会社があります。1人で給与計算を行なうと、チェックリストを作成していても確認のもれが生じたり、認識違いのまま何ヵ月も経過してしまうということがあり得ます。
できれば顧問の社労士にチェックしてもらったり、2名以上で処理を進めたりして、二重にチェックをできるような体制を作ったほうが良いでしょう。
給与計算のチェックリストを載せておきますので、参考にしてください。
給与計算チェックリスト
新入社員
□
氏名、生年月日、入社年月日、住所、給与、社会保険等、基本情報を正確に入力しているか。
□
雇用保険料を控除しているか(社会保険料は翌月控除)。
□
月の途中で入社している場合、賃金規程に沿って日割計算をしているか。
□
所得税について、扶養控除等申告書の提出がある場合は甲欄、提出がない場合は乙欄にしているか。
退職者
□
末日退職以外の場合、その月分の社会保険料をゼロにしているか。
□
末日退職の社員の社会保険料を2ヵ月分引いているか(末締め当月25日払い等の会社の場合)。
□
給与計算期間の途中で退職した場合、日割計算をしているか。
□
1月1日ー4月30日までに退職した場合、残りの住民税を一括控除しているか。
□
通勤費を2ヵ月以上まとめて支給している場合、精算は行なったか。
固定賃金(基本給、役職手当、家族手当、通勤手当等)の変更
□
昇給、降給による給与変更を反映させたか。
□
扶養家族、住所等変更に伴う諸手当の改定をしたか。
社会保険料の変更
□
40歳の誕生月の翌月より介護保険料を控除しているか。
□
65歳の誕生月の翌月以降、介護保険料をゼロにしたか(末日が誕生日の場合を除く)。
□
4月給与支給時、満64歳の人がいる場合、雇用保険料をゼロにしたか。
□
保険料率の改定が反映されているか(厚生年金は毎年10月支給時)。
□
定時決定(算定基礎届)による変更が反映されているか(10月支給時)。
□
随時改定の対象となる場合、昇降給月から5ヵ月目に支給される給与から社会保険料を改定しているか。
賞与計算時
□
賞与支給月に社会保険の資格を喪失していないか。
□
賞与支給額の1000円未満を切り捨てて社会保険料を計算しているか。〈社会保険料のかかる賞与上限額:健康保険540万円(年累計)、厚生年金150万円(1回)〉
その他
□
6月、7月の住民税額が新年度の金額になっているか。
□
育児休業開始月より社会保険料を免除しているか。
〔月刊 経理WOMAN〕