第60回 6要素解説 ― 安定性の視点(2)

■安 定 性

 「安定した経営とは何か」と聞かれてまず始めに頭に浮かぶのは、赤字にならないようにすることと思われます。赤字と黒字は、企業に対する見方が全く異なるからです。税務調査も申告所得ベースですが、黒字申告を重点的に行いますし、銀行も赤字企業に対する融資は避ける傾向にあります。その意味でも、どの水準を下回ると赤字になるのかを押さえておく必要があります。これが、損益分岐点の売上です。

 会社の費用構造を分析すると、売上と関係なく発生する固定費と、売上に比例して発生する変動費に分解することができます。この固定費を回収する最低限の売上が損益分岐点の売上で、現状の売上がその売上をどれ位上回っているかを明らかにするのが、経営安全率といわれるものです。

 企業は、これを意識した経営をすることが安定性にとって必須事項となります。そして、次に赤字回避ができたとして、次の安定性の課題が、対従業員問題と借入金問題です。企業の最も重要な経営資源が「ヒト」である以上「ヒト」の安定は、経営の安定の基礎となるはずです。この「ヒト」の安定性の指標として、労働分配率をあげています。

 更に経営の安定性をおびやかすものとして、借入金への抵抗力です。借入金対策は、安定した経営にとって避けられないものであり、そのため、借入金安全率、借入月商比率、預金対借入金比率が重要となります。

 ここでは、(1)経営安全率     (2)借入金安全率
      (3)債務償還可能年数  (4)借入月商比率
      (5)預金対借入金比率             をみていきます。




(2)労働分配率

 人件費というのは付加価値の中から支払われます。企業が顧客に与えることができた付加価値のうち、どのくらいが「ヒト」の部分で占められているか、という見方もできます。付加価値=売上高−変動費ですから、見方を変えると付加価値=固定費+経常利益となります。人件費は固定費の中で大きなウエイトを占めていますので、付加価値に占める人件費の割合が高くなると、経常利益が固定費に食われ、マイナスになってしまいます。その状態では、企業が「安定している」とは言えなくなります。

 労働分配率は常に一人当たり付加価値とのセットで確認する必要があります。一人当たり付加価値が1,000万円で、労働分配率が40%の場合、従業員一人当たり人件費は400万円となり、従業員の年収の目安となります。労働分配率は高くなりすぎると収益を圧迫しますが、低く抑えられすぎると従業員のモラル低下に直結する場合があります。一般的には、「給与の3倍は稼げ」の言葉どおり、40〜50%が一つの基準となっています。

 また、中小企業の場合、役員報酬と従業員報酬のそれぞれの分配率を考慮する必要があります。一般的には、全体の労働分配率が50%の企業であれば、目安として、役員報酬分配率20%、従業員報酬分配率30%の比率で設定すると良いでしょう。

 企業の安定性という見方からすれば、労働分配率は低いほうが良いと言えます。しかし、事業の根底をなす「ヒト」の部分から見れば、低すぎると全体のバランスが悪くなってしまいます。

 付加価値が少なければ人件費は下げるしかありません。逆に言えば、人件費を上げるためには、付加価値を高めることが必要です。従業員が頑張ったらその分給与をたくさんもらえるような仕組み(評価制度)を考えていくことも必要です。


 是非、この機会に決算診断をしてみては、いかがでしょうか。





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