第16回 [健全性の向上]を実現するための改善課題は!!

 引き続き、6要素から自社の経営改善をするための課題について、説明をしていきます。
 今回は健全性です。


 商品を仕入れたのに、その代金を支払う資金がなければ、仕入先はもう商品を納めてくれません。売るものがないと、会社は倒産します。手形で支払うとしても決済日に当座口座に資金がなければ手形が不渡りになって会社は倒産します。

 当たり前のことですが、万が一にもそんなことにならないように、会社の財政状態(ヒトに例えれば懐具合と言ってもいいでしょう)が良好かどうかを見る必要があります。それが会社の[健全性]です。財政状態(懐具合)が良好で支払能力があるということは、会社を継続的に運営していくために必要な資金の出所と使われ方が適正でなければなりません。また、必要な資金をいつでも調達できる体制になっていることも大変重要です。

[健全性]を判定するのは、以下の5つの項目です。


(1)

短期的支払能力を見るための
 「流動比率」= 流動資産  ×100
流動負債
(大きいほど良好です)


(2)

短期的支払能力を見るための
 「当座比率」= 当座資産  ×100
流動負債
(大きいほど良好です)


(3)

自己資本の投資充当度を見るための
 「固定比率」= 固定資産  ×100
自己資本
(小さいほど良好です)


(4)

長期資金の投資充当度を見るための
 「固定長期適合率」= 固定資産  ×100
自己資本+固定負債
(小さいほど良好です)


(5)

企業生命力の強度を見るための
 「自己資本比率」= 自己資本  ×100
総資本
(大きいほど良好です)

 これらの判定結果によって「健全性の向上」を実現していくための改善課題で考えられるのは以下の通りです。


業種別(卸売業、小売業、サービス業、製造業、建設業、運輸業、飲食業)の
「健全性の向上」実現のための改善課題の表示(例)

卸売業 小売業 サービス業
資金調達先の確保
計画的な資産形成
内部管理体制の充実
自己資本の充実
資産内容の見直し
負債内容の見直し
リスク管理の強化
人材育成の強化
金融機関との関係強化
競合対策の推進
 
資金調達先の確保
計画的な資産形成
内部管理体制の充実
自己資本の充実
仕入業者等との協調
資産内容の見直し
負債内容の見直し
リスク管理の強化
キャッシュフローの重視
金融機関との関係強化
 
資金調達先の確保
計画的な資産形成
自己資本の充実
リスク管理の強化
資産内容の見直し
負債内容の見直し
処遇システムの構築
店舗の活性化
内部管理体制の充実
情報ネットワーク構築

製造業 建設業
資金調達先の確保
計画的な資産形成
内部体制の充実
自己資本の充実
リスク管理の強化
資産内容の見直し
負債内容の見直し
設備投資計画の立案
キャッシュフローの重視
金融機関との関係強化

 
資金調達先の確保
計画的な資産形成
自己資本の充実
リスク管理の徹底
債権管理の徹底
投資計画の十分な検討
計数管理の徹底
コストダウンの推進
資産内容の見直し
負債内容の見直し

運輸業 飲食業
資金調達先の確保
計画的な資産形成
自己資本の充実
リスク管理の徹底
資産内容の見直し
負債内容の見直し
輸送新サービスの強化
人材の確保
金融機関との関係強化
内部管理体制の充実
 
資金調達先の確保
計画的な資産形成
自己資本の充実
内部管理体制の充実
IT化の推進
資産内容の見直し
負債内容の見直し
人材の確保
金融機関との関係強化
リスク管理の強化


 例えば、小売業の場合で、自社にとって安定性の判定からで、「資金調達先の確保」が課題であったとすると、以下のような検討項目が考えられます。


小売業「健全性向上」の改善課題(例)

課題テーマ 資金調達先の確保

課題のご提案
公的金融機関による公的制度融資について調べ、その中で自社にとって活用できるものについては効果的に活用する。

施策の事例
(1) 公的金融機関の融資に関する資料を集め、自社に会った制度がないかについて研究することを検討する。
    (2) 取引金融機関に公的融資制度の中で自社で利用できるものがないか相談する。


課題のご提案
メイン銀行を明確にし、相互信頼関係の強化を図るとともに、不測の事態に備えて複数のサブ銀行も適宜作る。

施策の事例
(1) メイン銀行との信頼関係を築くための企業経営の現状報告のあり方の見直しを検討する。
    (2) メインとサブの銀行との取引状況を再度チェックし、バランスの見直しが必要でないかについて検討する。


課題のご提案
生損保会社・リース会社等資金の調達可能先をリストアップし融資条件を調べ、自社に適合できるものがあればその活用を図る。

施策の事例
(1) 予定外の資金が必要となった場合のことも考えて、生損保・リース会社等からの借入の研究を検討する。
    (2) 取引銀行から関連のリース会社に関する情報収集を検討する。




課題テーマ 自己資本の充実

課題のご提案
自己資本の充実を意図とした年度経営計画を策定し、毎月必ず予実対比して問題点を次月には必ず解決するようにする。

施策の事例
(1) 目標に自己資本比率の向上を盛り込んだ経営計画を策定することを検討する。
    (2) 当面、自己資本比率の向上目標を何処に置けば良いのかについて検討する。


課題のご提案
自己資本比率(総資本に占める自己資本割合)に重みが出るまで、社外流出を極力抑える意味で、配当や役員賞与を停止する。

施策の事例
(1) 当面、配当や役員賞与は考えないことを検討する。
    (2) 社長の収入の一定額を増資の原資とするために、毎月積み立てることを検討する。


課題のご提案
安易な意思決定を避け、一定額以上の社外流出にかかわる事項(配当や役員賞与等)は、経営会議に図るようにする。

施策の事例
(1) 経営会議等の場で、当面は配当や役員賞与については考えないことを確認する。
    (2) 可能ならば、配当を払わなければならないような株主から株の買取りを行なうことを検討する。




課題テーマ キャッシュフローの重視

課題のご提案
キャッシュフロー経営について学習し、自社のあり方について考える。

施策の事例
(1) キャッシュフロー経営に関する書籍を購入し、分からない点は会計事務所の職員に聞きながら学習することを検討する。
    (2) 決算診断提案書にある「キャッシュフローと自己資本」のページについてよく読み、自社の構造を理解し、今後のあり方を検討する。


課題のご提案
キャッシュフロー経営の研究と実践を行なう。

施策の事例
(1) 自社の売上債権の回収と買入債務の支払いの関係から、課題を明らかにし対策の立案を行なうことについて検討する。
    (2) 現在の棚卸資産のあり方について、キャッシュフローの面から改めてチェックし、問題点・原因・対策を検討する。


課題のご提案
投資効率を高めるため、要求する回収期間を短くする。

施策の事例
(1) 従来の基準よりも、例えば2年間程度、回収期間が短い物件でなければ出店しない等、今後の方針を検討する。
    (2) 投資回収期間を短くするため、店舗の坪当りコストの低減や居抜き物件の活用を積極的に検討する。



 決算書を分析・診断することにより、自分の会社の経営課題が明らかにされます。
 是非、顧問の会計事務所にご相談してみてください。

 次回は、「成長性の向上」を実現するための改善課題について説明します。





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