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「米寿の開発部長と2代目社長がガラス加工で競演」

(16/10/13)

 先月、千葉・幕張メッセで、アジア最大規模の分析・科学機器展が開かれた。会場の一角に人だかりが絶えない空間があった。理化学ガラス機器の専門メーカー、桐山製作所(東京、桐山時男社長)のブースで、ガスバーナーの炎に熱せられ水飴のようになったガラスを細工する職人技に多くの人が見入っていた。同社は漏斗のスタンダード『桐山ロート』で知られ、そのガラス製品群は研究開発や実験の現場で広く使われている。そんな同社は、過去の実績に甘んじることなく、更なる普及浸透と新市場開拓の手立てにも抜かりはない。

 同社は昭和23年、桐山現社長の父親である桐山弥太郎氏が設立した。終戦後のある日、一面、焼け野原になった東京で、戦前からガラス職人の修業を積んできた弥太郎氏が、焼失を免れた東京大学の構内にふらりと入り、窓越しに実験器具を眺めていた。その時、通りかかった薬学部の教授から「ガラス細工ができるのか」と声をかけられ「できる」と答えたのが今日につながる起点となる。研究者の要望に応え、多種多様なガラス器具を製作する日々の積み重ねが、弥太郎氏の腕に磨きをかけ、会社を成長軌道に乗せていく。

 同社を大きく飛躍させたのが『桐山ロート』の開発だ。多くの孔がある通常の漏斗と異なり、中央部の1カ所だけに孔をあけた画期的なロート。そのアイデアは「雨の中を歩いていた時、放射状に溝を切ったマンホールのふたの溝に沿って雨水が流れ落ちるのが目に入った。これだと思った」(桐山弥太郎氏)。かつて、NHKテレビ『プロジェクトX』で紹介された「川を流れる木の葉が岩に当たり方向を変えるのを見て、自動改札機を通る切符の向きを揃える方法がひらめいた」との有名な開発秘話をほうふつとさせる話である。

 数年前に社長業を息子にバトンタッチした創業者、弥太郎氏の現在の肩書は取締役開発部長。米寿(88歳)の開発部長は、今、経験が浅い人でも匠の技を発揮できるようにするための治具や工具の開発に力を注いでいる。「テーマが見つかると楽になる。半分以上、終わったようなもの」と、その職人魂にはいささかの衰えもない。技術担当でもある桐山時男社長は「ユーザーとの相談や経営全般が私の領分」と、親子の役割分担を説明する。

 同社では今月下旬に「蒸留」をテーマする実践実習セミナーを初めて開催する。ユーザーである企業や大学の研究者との一体感を強め、ひいては「桐山ファン」の増大につなげようという企画だ。さらに、「これまで研究開発の分野だけに役立ててきた特殊なガラス加工技術を、民生品向けに生かし新商品を開発する」(桐山社長)と新機軸も打ち出した。取締役開発部長と社長技術担当の名コンビが、さて、何を創り出してくれるか…。

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