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カラー暗視技術の産総研発ベンチャーを第2創業

(16/07/28)

 多彩なキャリアを積み重ねたビジネスパーソンが、ある技術に惚れ込み、また、技術開発者と意気投合し、ベンチャー企業の社長に就く。よくありそうで、実はそう多くはないこのパターンに当てはまるのが、ナノルクス(茨城県つくば市)の祖父江基史社長だ。祖父江氏は同社のカラー暗視技術を知り、革新的・画期的な技術と見極めて、昨秋、社長に就任した。「売り上げはまだこれから。船が港から出始めた段階」(祖父江社長)のナノルクス丸の船長は、未踏のブルーオーシャンに向け、面舵(おもかじ)を一杯に切っていく。

 ナノルクスは産業技術総合研究所の永宗靖主任研究員が開発したカラー暗視技術の実用化を目指し、平成22年(2010年)に産総研発ベンチャーとして立ち上がった。同技術は赤外線を用いて、真っ暗闇の空間をカラーで映し出せるようにするもの。従来の赤外線暗視などでは被写体をモノクロでしか映せなかったのをカラー化でき、視認性を大幅に高められる。大きな可能性を持つ技術だが、これまでのところ、“未完の大器”の状態が続いてきた。その開花に取り組むのが祖父江氏だ。

 理工学修士、経済学修士と文理両道の祖父江氏は、日本銀行に勤め、次いで、インテル、デルといった外資系企業で働き、その後、ベンチャー支援機関の副代表を務めるなど、ユニークな経歴の持ち主。たまたま、ベンチャー支援機関の取り組みを通して産総研の永宗氏と出会い、永宗氏の技術に驚愕し、互いに共感し合ったことから昨年11月、ナノルクス丸の新船長となる。「昨年11月が第2創業の時」(同)と話す船長は、豊富な知識、ノウハウを生かして進むべき航路を定め、船を港から大海へと進めつつある。

 真っ暗闇をカラーで映し出せる技術は、さまざまなシーンでの有効活用が見込める。トンネルや河川の監視など社会インフラ系、各種施設における防犯カメラ、自動運転を見据えた車載カメラ…などが代表事例だ。同社では「まず社会インフラ系の需要から掘り起こす。将来的には車両1台に何個も搭載される車載カメラが本命」(同)と、先々を見通している。暗視技術は軍需とも直結するが「最初は経済合理的な判断を優先させる」(同)。

 「働き先はいろいろ変わったが、世の中に役に立つものを広めたいとの思いや、自分自身を高められる修行の場を求めるような気持ちは一貫している」。祖父江社長は自らの仕事観をそう説明する。ナノルクス丸が目指す先は、もちろん、血で血を洗うようなレッドオーシャンではなく、競争のない未開拓市場となるブルーオーシャン。修行を重ね、養われた慧眼には、水平線の向こうの青々とした大洋がくっきり映っているようだ。

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