e中小企業コラム
「e中小企業コラム」一覧へ

サイズ違い・片足販売など業界の常識覆し、介護靴トップに君臨

(16/07/21)

 「歩くことが何より大切だということを知ってもらいたかった」。徳武産業(香川県さぬき市、西尾政展社長)の十河(そごう)孝男会長は自身の思いであり、会社のレゾンデートル(存在理由)ともなるものをそう説明する。思いは「あゆみ」ブランドに託され、「あゆみ」が、その名の通り、一歩一歩、歩を進めるのに合わせ同社も成長発展を続けてきた。社会の高齢化の進展とも軌を一にする「あゆみ」とは、はて一体何なのか…。

 同社は昭和32年(1957年)、手袋縫製工場として発足し、その後、スリッパやバレーシューズを手がけるようになる。昭和59年(1984年)、創業者の女婿の十河現会長が、創業者の死去に伴い社長に就き、ルームシューズなどにも力を入れ出す。ある時、十河氏が、友人の老人保健施設関係者から「転ばない靴を作ってくれないか」と頼まれたのが大きな転機となる。

 転ばない靴を依頼された十河氏は、香川県内の老人ホームなどを調査する。その結果、お年寄りが転ぶのは、床の段差など床の問題もさることながら、履物が原因になるケースが少なくないことを知る。つっかけやスリッパの類いは、どうしても転びやすく、靴が望ましい。しかし、腫れやむくみ、外反母趾などで足が変形して、履ける靴がないお年寄りが驚くほど多いと気付かされる。この気付きが、平成7年(1995年)発売の高齢者・障害者用ケア(介護)シューズ「あゆみ」につながった。

 「高くて険しい山を乗り越えてきた」。昨年、会長となった十河氏は「あゆみ」誕生までの苦労をそう語る。足の変形などに対応するには左右のサイズ違いや片足だけの靴の販売も必要になる。ところが、サイズ違いや片足だけの販売では不良在庫の山ができてしまうので、靴業界の常識ではあり得ない話。誰もが成功するはずがない、と断じた。しかし、老人ホームなどの現場を見て回り、ニーズを確信する十河氏は、業界初のサイズ違い、片足だけの靴販売も採り入れた「あゆみ」ブランドを立ち上げて、見事、開花させる。「ケアシューズがニッチ市場だったのが、われわれ中小企業に向いていたのでは」(十河会長)。

 そのニッチ市場も高齢化の進展などから規模が拡大し、徳武産業を真似るような業界大手も出てきたが「ケアシューズのシェアは50%」(同)と、草分け企業の強みを存分に発揮している。同社には「おかげで、初めて靴を履くことができた」といった礼状が数多く届いている。今年2月、「あゆみ」の販売累計が1000万足に達したのを記念して公募した川柳では「手放せぬ 昔旦那で 今あゆみ」「よく転ぶ あゆみに変えて よく笑う」「寝たきりを 起こすあゆみと 孫の声」など、“秀作”が多数寄せられたという。

〔当サイトのコンテンツは中小企業庁・中小企業基盤整備機構の許可を得て掲載しています。〕
Copyright(c) Organization for Small and Medium Enterprises and Regional Innovation, Japan All rights reserved.
Copyright 著作権マーク SEIKO EPSON CORPORATION , All rights reserved.