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夢に現れた構想を製品化し、世界に挑むハイテクVB

(16/07/07)

 ノーベル賞クラスの発明発見は、往々にしてセレンディピティといわれる「偶然がもたらす幸運」や、入浴などでリラックスした時のひらめきが、その原点になっている。一方で、「見た夢」がきっかけとなることもある。筑波精工(栃木県上三川町)の傳寶菜(ポー・フォライ)社長も、そんな“夢の中に現れたアイデア”を形にした一人。夢から生まれた「静電チャック補強板」を世界市場に普及浸透させようと奮闘努力の日々を送っている。

 同社は昭和60(1985)年に半導体生産の後工程自動化装置などの製造販売会社として発足した。創業者は坂井正明氏。日本に長く暮らす中国系マレーシア人の傳・現社長は坂井氏の厚意により奨学金を受け、東京大学博士課程で静電界技術の研究を深める。平成13(2001)年、同技術を事業化するため筑波精工に入社し、平成23(2011)年に社長に就き今日に至る。同社役員には東大時代の恩師や大手精密機器メーカー元幹部が名を連ねており、研究開発型ベンチャービジネス(VB)として知る人ぞ知る存在になっている。

 現在の同社主力製品は、傳社長の研究テーマ「極表層静電界発生技術」に基づく静電チャックだ。対象物をクーロン力(静電気力)によって吸着固定する静電チャックは、半導体、液晶、太陽電池などの製造工程で広く活用されている。各工程においては、スマートフォンの小型軽量化・高機能化に伴う半導体ウエハの極薄化など、薄くなる一方の対象物をどうハンドリングするかが課題として浮上している。課題解決策として、薄くて脆い対象物に補強板をあてがう方式が考えられるが、これが、言うは易く…で、至難の業だった。

 「長時間の吸引力の維持、厚さ0・7mm以下、ウェット工程およびプラズマ環境での耐用性、耐熱250度C−の五つの条件をすべてクリアする必要があった」(傳社長)。傳社長は昼夜を問わず考え続けて、実験に明け暮れた。実験の様子は夢に出てくるまでになったが、現実でも夢でも成果を生み出せない日々が続いた。ところが、夢に現れたある構想が、筋が通っているように思え、「朝起きて実験したら一定の正しさが確認できた。その線に沿って解を追求した結果、新製品『Eチャックサポーター』につながった」(同)。

 同社では、今年度以降、ファブレス方式でEチャックサポーターを量産し、台湾、韓国、中国といった今日の半導体大国をはじめする世界市場の開拓を進めていく。傳社長が「夢で思い付いたのではなく、夢にまで見て“思い至った”と言うのが正しい」と語る同サポーターについて、同社では年間売り上げ数十億円から100億円規模の事業に育てる夢を描いている。夢から誕生した製品は、果たして夢を“正夢”とするか…。

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