e中小企業コラム
「e中小企業コラム」一覧へ

市場が縮む鉛筆の未来を、知恵とアイデアで切り開く

(16/06/23)

 デジタル化、ペーパーレス化や筆記具の多様化のあおりを受け、鉛筆の市場が縮小している。国内の鉛筆生産量は、ピークだった1960年代の3分の1〜4分の1にまで減少した。鉛筆=学童向けの趣が強まって、大人の“鉛筆離れ”は進むばかり。そんな趨勢を逆手に取って「大人の鉛筆」や「大人のもちかた先生」などユニークな商品を世に出し注目を集めているのが北星鉛筆(東京)だ。「鉛筆は裏切らない」と“鉛筆愛”を説く杉谷和俊社長は、鉛筆の未来を、知恵とアイデアで自ら切り開こうとしている。

 同社のルーツは19世紀まで溯る。明治30(1897)年、杉谷現社長の曽祖父が北海道に設立した材木会社がその原点。材木会社は主に鉛筆用の木材を鉛筆メーカーに供給していたが、大正12(1923)年の関東大震災に伴うごたごたから、曾祖父が取引先の鉛筆メーカーを引き継ぐことになる。時を経て、昭和26(1951)年に今日の北星鉛筆が誕生。実質的に4代目となる現社長が、明治時代から脈々と受け継がれている鉛筆事業を、平成の世にマッチさせようと奮闘努力の日々を送っている。

 「鉛筆は人を裏切らない。ボールペンやシャーペンはインク切れ、芯切れやペン先の不具合で書けなくなることがある。その点、鉛筆はいつでも書けるのだから」(杉谷社長)。鉛筆に注ぐ社長の情熱は本社に行けばよく分かる。ビルの壁面や屋上には巨大な鉛筆の絵があしらわれ、敷地には、鉛筆の形をした柱を組んだ鳥居が立つ「鉛筆神社」がデンと構える。神社では、短くなるまで使い切った鉛筆を供養する鉛筆感謝祭が開かれ、使い切り鉛筆5本と新品を交換するという、もったいない精神にあふれるサービスも実施している。

 市場が縮む中、手をこまねいていては、未来は開けない。そこで同社では、シャーペンの芯に太さ2ミリの鉛筆芯を使った「大人の鉛筆」、そのスマホ対応版となる「大人の鉛筆に、タッチペン」、指の置き場所を示す穴で、正しい持ち方を教える鉛筆付属器具「大人のもちかた先生」など、ユニークな製品を次々と開発。また、鉛筆工場から発生する大量のおがくずを、粘土や着火薪(まき)、さらに水彩画ならぬ“木彩画”の絵の具として商品化するなど、今日の循環型社会に対応するエコ&リサイクルの取り組みにも力を入れている。

 「文具を文具売り場だけで売る時代ではない。特に当社の製品は」。杉谷社長は売り場や売り方の改革も図っている。専用什器を作り、空港や道の駅などで販売し、ギフト需要なども取り込もうというものだ。曾祖父は「鉛筆は我が身を削って人の為になる。真ん中に芯の通った人間をつくる大切なもの。家業として続けるべし」と諭したという。杉谷社長は、伝統と革新の絶妙な組み合わせで、その家訓を守り続けようとしている。

〔当サイトのコンテンツは中小企業庁・中小企業基盤整備機構の許可を得て掲載しています。〕
Copyright(c) Organization for Small and Medium Enterprises and Regional Innovation, Japan All rights reserved.
Copyright 著作権マーク SEIKO EPSON CORPORATION , All rights reserved.