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女流芸術家が“能登の塩”から秀作生み出す

(16/05/12)

 「しおサイダー」と「しお・CAFE」。ミスマッチに思える塩とサイダー、塩とカフェの組み合わせが、今、人気を呼んでいる。仕掛けたのは企画・商品開発会社、Ante(アンテ、石川県加賀市)社長の中巳出理(なかみで・りい)さん。元・女流アーティストの中巳出さんは、奥能登・珠洲(石川県珠洲市)で400年以上受け継がれている揚げ浜式製塩を“素材”に、物語性たっぷりの秀作を創り上げた。

 もともと現代アートの彫刻家だった中巳出さんは、世界的なアーティストを目指して、ニューヨークを拠点に創作活動にいそしんだが「夢破れて、帰国」(中巳出社長)する。日本で何をやるか。浮上したのがアートを通して培ったセンスと人脈を生かせる、地域おこしや伝統文化の普及といった取り組みで、そのための企画・開発会社を平成21年に設立する。

 珠洲には、今ではごくわずかしかない塩田の一つが残る。能登半島沖の日本海は暖流と寒流が混ざり合い、潮の流れが速くてミネラルが豊富。そんな海水100%の珠洲の塩は、江戸時代から伝わる、海辺の砂を使って濃い塩水にする伝統的手法(揚げ浜式製塩法)でつくられる。希少な珠洲の塩に着目した中巳出社長は、孤軍奮闘の末、「しおサイダー」を商品化。芸術家ならではの感性豊かなパッケージングやマーケティングが奏功し、「年5万本でヒットの商品がいきなり20万本を超えた」(同)。地サイダーブームや、能登を舞台に製塩も題材となったNHK朝ドラ「まれ」の放映が、その後の普及拡大を後押しする。

 一昨年、同社が珠洲に開いた「しお・CAFE」は「輪島から先、能登半島の先端まで一店もない」(同)という“喫茶店不毛の地”での挑戦だった。日本海を臨む景勝地ながら、観光客も訪れない過疎の限界集落の空き家を買い取り、喫茶店に改装・オープンしたところ「24席の小さなカフェに1年間で2万人も来店した」(同)。意表を突くネーミングや、近くの社(やしろ)を縁結び神社と見立て、若い男女に照準を合わせた作戦が当たった。今では、都内百貨店の催事コーナーに“出張出店”するほどの人気ぶりとなっている。

 「イノベーションとは既存のものの新しい組み合わせ」「創造とはすでにあるものの統合」−シュンペーター(経済学者)や赤祖父俊一氏(地球物理学者)の卓見だ。「しおサイダー」「しお・CAFE」は、“組み合わせの妙”そのもので、「お茶、生け花をはじめ習い事を親に強制され、その反発から現代アートに走った」という中巳出社長の感性が生み出した、現代アートの一種とも言えよう。ものに付随するコトや物語が大きな付加価値を生む今日、コトと物語には事欠かない同社が、次はどんな作品を生み出してくれるか…。

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