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医師らが体験踏まえ、細胞治療の医薬品製造に乗り出す

(16/04/28)

 3年半前の山中伸弥京大教授のノーベル生理・医学賞受賞で、広く知れ渡ったのがiPS細胞(人工多能性幹細胞)。ノーベル賞受賞を機にiPS関連の研究開発には一段と拍車がかかり、iPSによる難病治療が実現するのも遠くないと見られている。そんなiPSをはじめとする細胞組織由来の医薬品製造に狙いを定めたベンチャー企業がある。ファーマバイオ(名古屋市、草野仁社長)がそれで、医師でもある草野社長は、「細胞治療」の有用性、必要性および将来性を確信し、事業家の道に踏み出した。

 同社の前身は、昭和53年(1978年)設立の医療機器販売会社で、平成22年(2010年)に社名を変更して、今日のファーマバイオが誕生する。ファーマバイオの立ち位置は、細胞組織由来医薬品のCDMO(受託研究開発型製造企業)というもの。再生医療や免疫療法の総称となる「細胞治療」のためのCMC(原薬プロセス研究、品質評価研究など)から治験薬・製品の製造、出荷配送までを一気通貫で引き受ける。

 「社名変更した2010年は、FDA(米国食品医薬品局)が世界初の細胞治療医薬品を承認した年。機は熟したと判断し、開発製造受託事業をスタートさせた」(草野社長)。同社が以前から、細胞や組織を原料とした医薬品CDMO、セル・セラピーズ社(豪州メルボルン)と協力関係にあったのも、背中を押した。両社は昨春、業務提携している。セ社はマレーシアなどにも進出していることから「アジア・パシフィック地域でCDMOのインフラを形成する」(同)と大きなビジョンも描いている。

 CDMOについて草野社長は「製薬会社にとって、コスト削減、省力化をはじめ多くの利用メリットがあり、これから広がっていく分野」と市場の拡大を見通す。その上で、平成26年(2014年)施行の改正薬事法を踏まえ「当社は、世界のスタンダードである薬事法に基づく案件のみを受託していく。顧客との競合を避けるため、シーズの開発は手がけず、自社製品を持つこともない」と明確な方針を打ち出している。こうした事業スキームは日本初で、トップランナーとして道を切り開く構えだ。

 同社では、現在、稼働している名古屋市の製造施設に続いて、今年度中には川崎市のライフイノベーション国際戦略特区に新施設を設置、稼働させる。さらに第3、第4の施設開設も視野に入れている。医療機器販売から医薬品CDMOへの業態転換の背景には、現在の同社会長や社外取締役(医師)の肉親が悪性腫瘍を患った際、樹状細胞を投与したら十分な効果が表れた、腎臓内科医である草野社長が腎不全患者の治療体験から細胞治療の重要性を肌で感じた−などがあるという。医療現場に端を発するCDMOベンチャーが、創薬ビジネスを新たなフェーズに導こうとしている。

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