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電子レンジのお化け”で化学産業を変える!
(16/04/07)

 「馬車が自動車になり、電気自動車に変わる。伝書バトは電話からインターネットへと進化した。しかし、化学産業は100年前とほとんど変わっていない」−。乗り物や通信を引き合いに出して、化学の“旧態依然ぶり”を強調するのはマイクロ波化学(大阪府吹田市)の吉野巌社長。その変わっていない化学分野に「イノベーションを起こし、ものづくりの方向を根本的に変える」(吉野社長)と大胆な目標を掲げているのが同社である。カギを握るのが社名にうたったマイクロ波。電子レンジにも使われるマイクロ波で、はて何をどうするのか…。

 同社は、大手商社の化学品部門に勤め、その後、米国でコンサルタント業などに携わった吉野社長と、大阪大学でマイクロ波を研究していた塚原保徳氏(取締役CSO=最高科学責任者)の二人が共同創業者となり、平成19年に設立した。米国留学の経験もある吉野社長は、留学時代から「いつか起業を」の思いを抱いていた。ひょんなきっかけから、塚原CSOと出会って意気投合し、阪大発ベンチャーを発足、思いを形にする。

 電磁波の一種であるマイクロ波は、物質中の特定の分子を直接振動させて、内部からの急速・均一な加熱を可能にする。70年前から研究が進められ、食品を温める電子レンジでお馴染みのマイクロ波だが、設備の大型化がネックとなり、化学品製造などへの応用は困難というのが化学業界の常識だった。同社は常識を打ち破る“電子レンジのお化け”の開発に成功。昨年3月にその第1弾として、マイクロ波で化学品を製造する工場を大阪市に立ち上げた。

 吉野社長は「化学者の見識とエンジニアのノウハウを融合することで装置の大型化に成功した。物理学の見識を融合し、化学反応を分子レベルで設計できる技術も開発した」と“お化け誕生”の背景や技術の要諦を説明する。エネルギー使用量が3分の1で済む、用地面積は5分の1に…など、多くのメリットがあるマイクロ波化学工場は、インク材料、食品素材をはじめ、様々な産業用途での利活用が見込まれる。大阪工場では新聞用インクの基礎原料となる脂肪酸エステルを製造・出荷している。

 国内外の大手企業や大学との連携も加速中。「大阪工場がショールームとしての機能も果たしており、マイクロ波技術の導入を検討しているメーカーの開発担当者が多数訪れている」(同)。創業から9年。第2、第3の工場案件も矢継ぎ早に立ち上がる状況を迎えた今、同社のビジョン『Make Wave、Make World。世界が知らない世界をつくれ』が、にわかに現実味を帯びてきている。

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