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元ラリードライバーが三輪EVで世界に打って出る
(16/03/10)

 「自分しか創れない、こんなことをやるのは僕しかない」−。使命感と天命に突き動かされるように、三輪の電気自動車(EV)の製造・販売に取り組んでいるのが日本エレクトライク(川崎市)の松波登社長だ。ラリードライバーのキャリアも持つ松波社長が、高校生の時、“三丁目の夕日”の頃に出会ったオート三輪を、エコで、安価で、高性能と3拍子そろった最新ビークルとしてよみがえらせた。「インドで量産し、海外市場も開拓する」(松波社長)と、古くて新しい三輪車で世界に打って出る。

 同社は平成20年、松波社長が、縁あって、それまで東海大学との産学連携により研究開発を進めていた三輪EVの事業化を目的に設立した。大手自動車メーカーのラリードライバーを経て、父親が経営していた検知・測定機器メーカーを継いだ松波社長が、ちょうど還暦(60歳)の誕生日に興したベンチャー企業だ。ラリードラーバーになるほどの車好きで、「高校生の時、運転練習で乗った三輪車の楽しさ、便利さがずっと残っていて、いつか三輪車を、と思っていた」(松波社長)のが同社発足の原点となる。

 昭和30年代の東京・下町を舞台に、庶民の暮らしぶりを描いた漫画であり映画にもなった「三丁目の夕日」では、当時の時代背景のシンボルとして、オート三輪が登場する。それほどポピュラーだったオート三輪だが、時代の波に押され、日本ではやがて消滅する(東南アジアなどでは今でも、広く普及)。道路整備が進んで、走行速度が高速化するのに伴い、カーブで転倒しやすいオート三輪の事故が多発したことが、消滅した一因とされる。

 同社はカーブで転倒しやすい弱点を、後輪の2輪を2個のモーターでそれぞれ駆動させ、カーブでは左右の回転数を変えるというアイデアにより克服した。車体は、インドのオート三輪メーカーから仕入れ、エンジン部分をバッテリーとモーターに取り換えることで、低価格化を図った。「二輪と四輪のいいとこ取りをしたような車。ハイテクとレトロのギャップが魅力」(同)と語る“自信作”は、昨秋発売された。発売に先立ち、昨年6月、国交省の型式認定を取得して、日本で16番目、20年ぶりの自動車メーカーともなっている。

 同社では、各種の宅配業務や、農林業、倉庫・市場の運搬作業にうってつけとアピールして、目下、関係各方面に売り込み中。手応えは上々とのことだが、「現在は、逆ザヤで、売るだけ赤字」(同)の状況。そのため、車体の仕入れ先のインド社との提携を深め、インドでの三輪EVの量産により黒字化を成し遂げ、併せて、世界市場の開拓に乗り出す計画を煮詰めている。「三輪車が好きだから、うずうずして始めた」(同)という“還暦ベンチャー”が、世界に羽ばたく日はそう遠くないようだ。

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