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公募社長が“事業の再定義”で赤字ローカル線を再生
(16/02/04)

 時代に取り残され、廃れつつあるものの一つにローカル線=地方鉄道が挙げられよう。モータリゼーションの進捗、国鉄からJRへの転換、少子化・過疎化の進展…。様々な要因から、乗客数が減少し、経営が立ち行かなくなり、廃線を余儀なくされるローカル線が少なくないのだ。そんな中、異彩を放つのが、いすみ鉄道(千葉県大多喜町、鳥塚亮社長)だ。8年前に公募により就任した鳥塚社長の「過去の延長線上には未来がない」という“イノベーション思想”が、房総半島の南東部を走る全長26.8kmのいすみ線に、奇跡ともいえる賑わいをもたらした。

 いすみ線は国鉄時代の木原線を引き継いだ路線で、千葉県、大多喜町などが出資する第3セクター、いすみ鉄道が運営主体となる。ご多分に漏れず赤字続きの同線の存続をかけ、平成20年に社長を公募した。応募123人の中から選ばれたのが、外資系航空会社に勤めていた自称“鉄道オタク”の鳥塚社長。鳥塚社長は、鉄道とは、列車とは、を根っこの部分から見直して再定義することを、いすみ鉄道再生のスタート点とした。

 再定義のポイントは、従来の「目的地に行くための鉄道、列車」ではなく「乗ること自体が目的の鉄道、列車」に切り替えるというもの。地元の人たちの足としての鉄道では、車社会、人口減の中、どうソロバンをはじいても赤字を免れない。それならば、足ではなく、地元以外から乗るために来てもらう列車、つまりは「観光列車」に生き残りの活路を求めた。

 「金があれば蒸気機関車やお座敷列車を導入できる。金がない当社はムーミン列車を走らせた」(鳥塚社長)。ムーミン列車とは、絵本や漫画、アニメでおなじみのムーミンのキャラクターを車体側面に貼り付けただけ。「バスに貼ったら、どこかの幼稚園の送迎バスで終わり」(同)となるのが、これが大当たり。黄色い車体のムーミン列車が菜の花畑をのどかに走る絵が、ムーミンたちが暮らすムーミン谷を連想させ、テレビの旅番組や旅行雑誌で取り上げられたりもして、ムーミン列車ブームに火が付いた。社長自ら考案したキャッチコピーは『ここには“何もない”があります』−。「何もないが、見える人にはムーミン谷が見えるんです」(同)。

 一方で、フォークソング・ジャズ列車や夜行列車の運行、国鉄車両「キハ52」の導入、地元産イセエビ、アワビが売り物の列車内レストランの開業、列車内結婚式、駅弁販売から、AKBメンバーの駅ホームでのコンサート、枕木に名前を入れる枕木オーナーの募集まで、あの手この手の新企画を次々と打ち出し、成果を上げている。過去の否定と事業の再定義、さらに「立ち止まったら倒れるだけ」(同)との強い危機意識が、赤字ローカル線の運営会社を、ベンチャー魂溢れるイノベーション企業へと見事に変身させた。

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