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AIブームが後押し、波に乗る音声合成ベンチャー
(15/11/18)

 ホームページの所定の空欄に、例えば「景気はどうですか」、「ぼちぼちですわ」と文字を書き込んで、ワンクリックすると、すぐに音声が流れる。男性・女性、感情表現あり・なし、標準語・関西弁など、任意に選んで聞き比べることもできる。音声合成システムを開発・販売するエーアイ(東京、吉田大介社長)が、自社製品「AIトーク」のデモ、PRのため公開しているページだ。そのAIトークはアンドロイドや人型ロボットに採用され、初めて議会で用いられるなど、今、活躍の舞台を大きく広げている。同社がビジョンとして掲げる「音声技術の世界一のプロバイダーになる」の実現は間近、と思えてくる。

 同社は、平成15年(2003年)に吉田社長が設立した。それまで、産学官連携による情報通信関連分野の研究機関、ATRで広報営業の仕事に携わっていた吉田氏が、ATRが研究開発した音声合成技術に惚れ込んで、その事業化を目的に、ATRからライセンスを購入し、起業に踏み切る。爾来、10数年。模索、混迷、第2創業、成長の時期を経て、いよいよ発展・飛躍期に差し掛かる。

 「従来の機械音ではなく、人の自然な音声を発せられる」(吉田社長)というAIトークは、集めた話者の音声データを母音と子音の音素に分けて分析、調整したうえで組み合わせる仕組み。コーパスベースと呼ばれる方式で、同方式自体は一般的なものだが、ノウハウや工夫をコツコツと積み重ね、独創の技術へと昇華させた。ユーザー層の幅広さが、AIトークの“賢さ”を雄弁に物語る。

 電話自動音声応答システム、防災行政無線、Jアラート(全国瞬時警報システム)、eラーニングからカーナビ、道路交通案内、各種プロモーション・キャンペーン、ゲームまで、採用実績は多岐にわたる。タレント、マツコ・デラックスさんの「マツコロイド」、石黒浩大阪大学教授による「ジェミノイド」といったアンドロイド(人造人間)や、話題の人型ロボット「ペッパー」にも搭載された。今年6月の東京都北区の区議会では、“筆談ホステス”から転身した斉藤りえ区議が、本邦初の音声合成による一般質問を実施。議場の傍聴席は40年ぶりに満席になったという。

 吉田社長は、ATRで初めて音声合成技術を知った時のことを「こんなおもしろい技術は世の中に出さないといかんと思った」と振り返る。その熱い思いが、悪戦苦闘のアーリーステージを乗り越えさせ、また、研究開発成果と製品化の間に立ちはだかる死の谷を飛び越えさせた。時代は今、第3次人工知能(AI)ブームの渦中にある。社名に人工知能を採った同社の、世界一を目指した激走は、追い風を受け、さらに加速しそうだ。

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