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歯科技工所が低額自費診療による“三方良し”目指す
(15/05/27)

 歯の治療には,歯科医師と併せて歯科技工士が欠かせない。歯科医の指示に基づき、義歯(入れ歯)や補綴物(ほてつぶつ、差し歯・銀歯)を製作・加工する医療系技術専門職。それが歯科技工士だが、近年、なり手が少なく高齢化が進むなど、構造的な問題を抱えている。そんな業界にイノベーションを起こそうと立ち上がったのがQLデンタルメーカー(川崎市)の石原孝樹社長だ。石原社長は、日本の歯科治療はガラパゴス化していると捉えて、新素材の活用を糸口に構造問題やガラパゴス化を解消し「患者、歯科医とわれわれ歯科技工士の“三方良し”を実現する」と意気込む。

 同社は昨年5月に発足し、丸一年経ったばかりの歯科技工所。歯科技工士として10年以上のキャリアを持つ石原社長が「スーパーブラックな業界から脱却し、歯科技工士の社会的地位を向上させる」ために、当初からIPO(株式公開)を視野に入れ設立した。石原さんは、業界のブラック度合いの一例として「時給換算で最低賃金を下回るような労働環境にある」と説明する。

 IPOに向け同社が打ち出した戦略は、2000年以降に実用化されて、欧米では歯科治療の主流の材料の一つとなっているジルコニアセラミックスを利活用することで「新領域の低額自費診療を普及させる」(石原社長)といったものだ。金属材料やプラスチック材料を補綴物に使う保険診療と比べると割高だが、セラミックスに特化して効率的な製作・加工体制を築くことで、現行の高額自費診療よりは、ずっと割安な自費診療が可能になるという。

 具体的には、1万円以下(保険)と10万円以上(高額自費)の間の「これまで空白地帯であった数万円の価格帯で、質の高い歯科治療を広げていく」(同)戦略となる。石原社長は「金属材料にはアレルギーや歯肉の変色を引き起こすリスクがあり、海外では金属を使わないスタイルが当たり前」と、“メタルフリー”が世界の潮流になっているとも解説する。

 歯科技工士の数は3万5000人余り。歯科技工所は2万弱で、1〜2人の個人事業主、小規模事業者が9割近くを占めている。そんな業界で初の上場企業を目指す同社は、上場と併せて、アジアへ進出する、歯科技工士養成スクールや歯科医院を運営するといった目標も掲げている。石原社長は「歯科技工士の仕事を通して、歯科業界が抱える問題の大きさを痛感した。この状況を打破する突破口が低額自費診療だと確信するに至った」と、自らが台風の目となり、業界に旋風を巻き起こそうとしている。

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