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第34回 「労働分配率」の不思議(経営会計 その7)


 今回は経営会計の最後のテーマとして「労働分配率」を取り上げたい。労働分配率とは、粗利益(付加価値)に占める人件費の割合で、一般的に生産性をはかる指標として用いられる。計算式は「(人件費÷粗利益(付加価値))×100」となり、労働分配率が低ければ低いほど「生産性の高い会社である」という評価になる。

 経営会計の視点で「労働分配率」を押さえるポイントは2つ。1つ目は「粗利(付加価値)と人件費の定義」、2つ目は「労働分配率が低い会社ほど一人当たり人件費は高いという現実の矛盾」。

 1つ目のポイントである科目の定義については経営会計の解説の中で何度も触れてきたが、自社の「粗利(付加価値)」とは何で「人件費」には何が含まれるのかは会社毎に定義されなければならない。労働分配率は経営者の考え方によって数値が異なるのだから、労働分配率は分析指標の中でも特に経営会計らしい指標といえる。

 2つ目のポイントの「労働分配率が低い会社ほど一人あたりの人件費は高い」という言葉に「?」と思われた方はパラダイムが「算数」に縛られている。確かに算数的に言うと、労働分配率を低くする為には人件費は下げなければならない。しかし現実は全くそうなっていない。一人あたり人件費の少ない会社の労働分配率は高く、一人あたり人件費の多い会社の労働分配率は低いのである。

 例えば、IT関連企業の一人あたり平均給与は一千万円を超えていながら、組織としての労働分配率は一桁%だったりする。逆に肉体労働や会計事務所のような労働集約型産業では一人あたり平均給与が500万円を切っているのに、労働分配率が50%を超えているケースが少なくない。

 早速自社の粗利益(付加価値)と人件費を定義し、労働分配率を算出してみよう。そして、人件費を高めながら労働分配率を低くしていくための戦略を立てよう。その矛盾を解決することが経営者の仕事であり、企業の限りない成長を約束するヒントがそこに隠されている。これは航海士である会計事務所には尋ねられない、社長の仕事。