会社を良くする「経営の教科書」
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第32回 「維持経費」と「戦略経費」(経営会計 その5)


 経営の世界に踏み込んでいくと、現実には算数が全く通用しない事実に直面することがとても多いことに驚く。だから、財務を算数で捉えると大失敗する危険性がある。例えば、「売上」−「経費」=「利益」という算式に当てはめる限り経費を下げれば「利益」は増加する。ところが、当然現実はそうは行かない。

 例えば、「広告宣伝費」を削減(その広告宣伝費が本来の広告宣伝として拠出されたことが前提)しても利益が増加するどころか、逆に減少する可能性の方が大きい。つまり、経費を削減したことが原因で、更に売上が下がり、利益は当然減少することになってしまう。

 更に言えば、広告宣伝費が単なる当期の売上増加を目的とするならばこれは当然「経費」になるが、知名度の向上やブランディング化を目的とするなら「投資」と定義することができる。つまり、同じ支出であっても、その支出が持つ性格によって経営会計上の認識は異なることになる。

 整理すると、経営会計において大切なのは、経費支出の目的と定義を明確にしておくこと。

 さっそく、大雑把にでも自社の経費を現状維持のために拠出している「維持経費」と、未来への投資としての「戦略経費」に分類した場合、その割合がどうなっているのかを確認してみるといい。「維持経費がほとんど」という会社の将来が危ぶまれることは誰にでもご理解いただけるだろう。

 もう少し突っ込むと、人件費だってその中身を同じように整理することができる。現状維持の為の人件費と、未来の為の人件費。つまり、今の稼ぎ頭は現状維持の人件費で、今はたいして稼げてはいないけれど将来稼ぎ頭になる見込みの人件費。あなたの会社の人件費の構成はどうなっているだろうか?

 経営者が科目の中身をつまびらかにする必要はない、しかし、経営者が科目の定義をしておくことは重要である。さて、あなたは会社の経費を単純に算数で考えていないだろうか?未来のための経費をどの程度確保できているだろうか?早速決算書を確認してみよう。わからなければ航海士である税理士に尋ねてみよう。