会社を良くする「経営の教科書」
経営の教科書
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第26回 たった1日(1/365)の驚くべき効果


 ある日、小売店を多店舗で展開しているA社長から次のような依頼を受けた。「弊社の取引は季節変動があるので、期中に一時的な資金圧迫を起こす。前期は新規出店に伴い資金を要したこともあり、来期は借入をしないと資金ショートを起こす見込み。ついては、銀行交渉の支援をしてほしい」。

 ご依頼を受け、資金シミュレーションを行った結果、確かに4ヶ月後から資金が不足し、閑散期となる7ヶ月後に最大約4千万円の資金ショートが起きる。その後、例年通りの動きで売上が上昇すると10ヶ月後には資金ショートは回復する。

 上記シミュレーションを踏まえ、余裕を見て約5千万円の資金を3ヶ月後に短期で借入れ、半年後に返済する交渉を進めることを決定した・・・。何となくこれで問題は解決しそうだが、実はこの話には更に続きがある。

 この相談を受けた優秀な担当者Yはその後一ヶ月の間に次の対策を実施した。(1)仕入先に支払条件の延長を依頼。(2)店子に回収の早期化を依頼。(3)棚卸しをギリギリまで圧縮する。(1)と(2)は会社の信用の低下を防ぐため、会計事務所と相談の上、「経理の合理化のために会計基準を見直した」旨の手紙を作成して依頼した。

 その結果、すべての企業から承諾は得られなかったものの、(1)支払日数は平均4日伸び、(2)回収は平均5日短縮し、(3)在庫は10日分圧縮した。すると、最初に行ったシミュレーションに変化が起きる。なんと約4千万円の資金ショートはなくなり、期末資金残高も当初9百万円程度だった額が、4千万円を超える残高になったのである。

 これは、売上を1円上げた訳でも、経費を1円削ったわけでもない。つまりP/Lには何の変化も起きていない・・・(不要な借入のために発生する金利の支払がなくなる点は別として)。ただ、日付をずらしただけ・・・。これがB/S経営の発想。時間をずらすと現金残高が変わるのがB/S経営の発想なのである。

 資金格付けのランクを1段階上げるために、資金を生もうと思ったら多くの経営者は売上を上げるか? 経費を削るか? と考える。しかしそれはアマチュアの経営者・・・。P/Lの発想は当然として、同時にB/Sの中にどの様な選択肢があるのかを思考するのがプロ経営者。さて、あなたはどちらの経営者だろうか?