税務調査の法的知識
税理士業界にフォーカスした“税務調査の法的知識”
一覧はこちら

第53回 守秘義務がある業種の税務調査範囲
(16/02/04)

 「医者に対する税務調査で、カルテは質問検査権(税務調査)の範囲・対象になるのですか?」この質問に根拠をもって回答できる人は、非常に少ないかと思います。

 実はこの質問、考え始めると難しい問題ではあるのですが、回答の一端となるものが国税庁のサイトに載っています。


税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

問8 調査対象となる納税者の方について、医師、弁護士のように職業上の守秘義務が課されている場合や宗教法人のように個人の信教に関する情報を保有している場合、業務上の秘密に関する帳簿書類等の提示・提出を拒むことはできますか。

(答)調査担当者は、調査について必要があると判断した場合には、業務上の秘密に関する帳簿書類等であっても、納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て、そのような帳簿書類等を提示・提出いただく場合があります。いずれの場合においても、調査のために必要な範囲でお願いしているものであり、法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるものです。調査担当者には調査を通じて知った秘密を漏らしてはならない義務が課されていますので、調査へのご協力をお願いします。


 カルテが質問検査権の範囲内かどうか、判決を読むと「範囲内」と結論付けているものがほとんどになります。例えば、「平成元年9月14日東京地裁」「平成2年7月19日最高裁判所第一小法廷」など。

 その一方で、「税務調査と質問検査権法の知識Q&A」(新版 安部和彦著 清文社)280ページ〜には

「調査官は最初に納税者が用意した会計帳簿を十分検査し、そこで生じた疑問をまず納税者ないし立会いの税理士にぶつけてその解明に努める必要がある。仮にそれで解明されない場合(たとえば、調査官と医師や事務長とのやり取りで、カルテに収入や支出に関する事項が記載されていることを把握した場合など)には、カルテ開示することもやむを得ないであろう。」
「このようなプロセスを経ることなく、単に過去の判例でカルテの検査が認められることのみを盾にとって、調査官から一足飛びにカルテの開示を要求されるような場合には、その判断に合理性がないもしくは薄弱であるとして、提示を拒否することもやむを得ないものと考えられる。」

と書かれています。「叩けばホコリが出るだろう」は質問検査権(税務調査)の範囲ではなく、一連の流れによる必然性があるからこそ、(カルテだけではなく)提示・提出する必要性があるというのが質問検査権の正しい理解になります。