6.経営計画を考える際に必要な情報

〜社長が経営計画を考える際に必要な検討ポイント〜


 これまで、5回にわたって「経営者」として会社の実態を正しく理解するために必要な「経営情報」の捉え方につて説明してきました。経営者としては最低限把握しておくべきテーマにフォーカスしてまとめてきましたが、最後のセッションでは、今後の会社の方向性を「正しく」そして「理解してもらえる」ように説明できる「経営計画」の纏め方について考えます。

 会社を取巻く環境は日々変化します。変化に対して適切に対応できるか否かが「会社存続」のキーファクターになるのは、経営者であれば当たり前のこととして理解していると思いますが、当たり前のことを会社の役職員全てが正しく理解できるように「知らしめる」ことが重要であることを理解している経営者は意外と少ないのが実情です。

 会社が存続する意義(=社会における役割)、会社を持続・成長させるための方法論(=売上を伸ばし、利益の出る会社の体質に改善するために必要な要素)を、社長自身、更には社員全てと共有することができる「自分の会社の経営計画」の纏め方を、(1)経営ビジョン・経営指針、(2)販売方針、(3)仕入方針、(4)経費方針、(5)利益方針という5つの観点から説明したいと思います。


経営ビジョン・経営指針を考える際に必要な情報要因

 会社を成長させるためには、「経営理念」「経営ビジョン」を明確にし、実現するための方法論である「経営戦略と戦術」「経営指針」を体系化しなければならないと言われます。事業規模の大小にかかわらず、会社を経営する経営者であれば「将来における自社のあるべき姿」を明確にし、それを実現するために「何をしなければいけないのか具体的な方法」を時々の情勢を見ながら常に考えることが重要であると説明しましたが、「あるべき姿」「行動すべき方法」は社員全てに理解してもらうことも重要です。この「あるべき姿」「行動すべき方法」を明らかにするための考え方を、以下簡単にまとめてみたいと思います。

 まずは、現状がどのような状況にあるのか、5W2Hの考え方で「誰が(=Who)、何を(=What)、何時(=When)、何処で(=Where)、どのような目的で(=Why)、どのような方法で(=How)、幾らで(=How much」確認し、「顧客」「技術」「機能」を前提に活動領域(=「事業ドメイン」と表現されることもある)を明確にすることです。

 その為には、管理会計的に5W2Hの項目につての情報を整備して何時でも確認できるようにしなければなりません。過去、現在の状態を正確に見極め、今後、5年後、10年後、自分の会社はどのようになっているのか具体的な指針を定めることが「経営ビジョン」となるのです。

 具体的な指針が決まれば、その目標を達成するための方法、手段=「戦略」を考えることができますが、同時に、実現するために課題となる個々の問題の解決方法である処方箋=「戦術」を具体的に考えなければなりません。


 戦術を考える上でも「5W2H」の要素を前提に処方箋を考えることが肝要ですが、扱っている「商品サービス」を「どのお客さん=市場」に提供するのか、その提供の方法を具体化することが最も分り易く、これを「商品・マーケットから考える戦略マトリクス」と言います。

 「商品とマーケット」の状態から、会社の利益を大きくするための戦略を具体的に考えるものです。つまり、規模と収益を極大化する方法論を競争相手や市場の変化等も考慮しながら扱っている「商品サービス」別に具体的に体系化することがポイントとなります。そのためには、会社で扱っている「商品サービス」に優位性があるのか否か、正しく評価できる情報の蓄積と活用できる環境を整備しておくことが重要です。

 扱っている商品サービスに優位性(価格や機能等)があり、他の競合相手にも十分に対抗できる場合は、販売活動を強化することで既存の市場でシェア拡大により収益を拡大することができます(市場浸透戦略)。また、商品サービスの優位性を積極的に活用し、これまで想定していなかった市場に進出し、新たな顧客層を拡大し収益の拡大を図ることも検討することができます(市場開拓戦略)。

 一方、扱っている商品サービスに優位性が無くなれば、新たな商品サービスを開発し提供することで既存市場においてシェアと収益の維持・拡大を図る(商品開発戦略)ことが一般的ですが、市場の動向や環境の変化等外部要因を正しく判断できなければ、期待通りにならず、失敗する可能性もありますので、慎重な対応が必要になります。

 また、現在扱っている商品サービスで相応のシェアを確保しているものの、競合相手を上回ることができず規模と収益の拡大が厳しいと判断される場合、現状とは全く異なる市場に対して新たな商品サービスを提供することで会社そのものの規模と収益の極大化を目指す(多角化戦略)ことも考えられます。

 ただ、商品開発戦略多角化戦略を考えるには、ターゲットとする市場を想定し、実際に、その市場において商品やサービスを提供する方法を具体的に、且つ、慎重に検討することが重要であり、綿密な計画を立案できる情報の収集力と分析力が求められます


 経営者自ら今後の経営計画策定に必要な「外部環境要因」の情報を収集するには時間と手間がかかりますが、自分の会社が属する業界全体の動向については、最低限確認しておくことが必要です。業界専門誌等の情報を効果的に活用することが良いでしょう。また、取り扱う商品やサービスを提供する市場やお客様の動向については、官公庁等公的機関が公表する情報等を参考にすることも一つの方法です。