4.経費実態の捉え方

〜各種科目別明細の部門別に捉えるコツ〜


 会社経営を維持するためにはコストがかかるのは当然です。

 財務会計的に費用を考えた場合、売上の源となる仕入による費用を除く「一般管理販売費」という項目で総括されることが一般的だと思います。

 また、会社の儲けの状態を把握する方法に「損益分岐点分析」という方法(次回セッションで詳しく説明します)がありますが、会社運営上で発生する費用を「材料費」のように,売上(あるいはつくった数量)に比例して変動する費用=「変動費」と、「家賃」「人件費」「保険料」のように,売上げの増減にかかわらず発生する費用=「固定費」に分解して考えることがあります。

 一般的には、以下のように変動費も固定費も低く、売上が落ちても利益を出せる優良会社を目指すことが前提となります。業種や業界特性により一概には言えないのですが、利益が出る体質にするに「変動費」「固定費」の“何”を改革すべきか詳細の内訳を検討することが重要となます。



 変動費は「原価実態の捉え方」でも説明しましたが、主に「仕入原価」に相当する部分であって、原価以外の経費の実態を捉える際には「固定費」に相当する部分を正しく把握することがポイントになります。

 給与は売上に関係なく社員に支払わなければなりませんので「人件費」が代表的な固定費であり、その他一般的な管理費や販売を促進する目的で発生する費用等も固定費と考えられるのですが、設備投資にかかわる借入金の支払利息等も含まれます。

 固定費は、売上が無くても必ず発生する経費であって、会社運営そのものを効率化する上では如何にして支出を抑えることができるかが重要なポイントになります。よく、経営が厳しくなると「人件費」削減を前提とした効率化を実施するケースが多いのですが、これは最後の手段と考えるべきであって、会社運営に係るその他経費の実態を正しく把握できる仕組みづくりを、まず、第一に考えることがポイントになるでしょう。

 つまり「経費」の支出を抑制するための方法論を考える上では、3つのキーワード「節約」「無駄の排除」「効率化」を前提に、実態を「適宜・適切」に見極めることができるように情報を整備、分析できるようにすることが大切なのです。

 売上や仕入についての情報を捉える際に、営業活動地域をどのように考えるか重要な検討テーマとしましたが、経費についても同様です。営業担当者が事業所や店舗、支店等で営業活動をする際に効率的に活動が行われているのか否かを確認するには、「場所」による実態を把握する必要があります。事業所や店舗・支店毎に経費に関する予算が組まれていることが一般的だと思いますが、予算計上される科目が果たして必要があるのか否かについて確認する上でも実態を正しく把握できるように情報を整備することが重要です。


3つのキーワードの意義

 会社経営を考えた場合、最終的に「どれだけ利益を計上する」ことができるのかが「目標」となりますが、そのためには「支出」=「経費」を如何にして抑えることができるかが「解決すべき課題」となります。

 単に経費の総額を「○○円」の内「○○%」削減して「○○円」まで抑えることができたと表現するのではなく、経営上で必要不可欠な経費は適切な費用として支出しなければなりませんし、費用の内訳がどのようになっているのかが重要なのです。つまり、費用を抑えることだけを前提とするのではなく目的に応じた「最適な支出」は「何」で「どの位」なのか考えることがポイントなのです。その為には、費用を抑える3つのキーワードを前提に実態把握の方法を考え、会社の特性を考慮して体系化しておくことです。

  • 節約=経営上必要だが、支出を抑えるために何をすべきか考え行動すること
  • 無駄の排除=本当に必要な支出なのか否か見極め、必要が無いものは廃止すること
  • 効率化=手間と時間をかけずに同じ結果を出すために行動すること

【節約すること・・・】

 企業が営業活動=「販売及び一般管理業務」を行うに当たって必要となる「人件費(=役員、従業員の給料、賃金、手当、賞与、福利厚生費)」並びに「諸経費(=交際費、旅費、交通費、通信費、光熱費及び消耗品費、租税公課、減価償却費、修繕費、保険料、不動産賃借料及びのれんの償却額等)」の内で、無くてはならないものは何かを考えることが第一です。

 その中で、人件費を除く他の科目について最低限で賄える額はどのくらいなのかを科目別に過去の実績内容を確認しながら見極めることが必要です。その為には、「誰が」「何のために」「どの位の頻度で」「どの位の額」を使用したのか確認できるようにすることも必要でしょう。特に、「接待交際費」「旅費交通費」「通信費」に関しては「目的」を明確に確認することが大切です。

 また、販売の一環として管理費とは別に「販売促進費」として捉えるケースもあります。この場合も、販売促進費名目で、アルバイトを雇用したり、宣伝を行ったり、場合によっては展示会場への出展等により様々な費用もかかることが想定されますが、やはり、費用の明細を確認し必要な経費なのか否かは確認できるようにしなければなりません。

【無駄を排除する・・・】

 節約と無駄では意味合いが異なります。企業が経営を維持する上で本当に必要な経費の場合は使い方を見直す=節約となりますが、経営上必要の無い費用に関しては無くてもよい費用=無駄に他ありません。

 販売計画を達成させるための名目で「接待交際費」を計上するケースがありますが、契約に結び付き会社の利益に貢献できるものであれば問題ありませんが、何時までたっても契約できない、利益は出ないとなれば、そもそも目的を達成したことにはならない費用と考えるべきであって、排除することが必要です。

 また、無計画に物を購入し大量に残してしまい結果として廃棄処分となるというケースも多々ありますが、廃棄処分となったものは無駄のなにものでもありません。

 コストをかける以上利益や何等かのメリットが得られることが必要であって、何も生まない費用に関しては全て排除することが必要となります。




【効率化することは】

 一方で、効率化というのは「使い方」を考えるという意味です。例えば、販売促進のために展示会へ出展するケースを想定しましょう。準備に5時間、展示後の片付けに3時間の時間を要しました。その時間内はアルバイトを雇用すると同時に、営業担当の方にも手伝ってもらったとします。しかし、段取りを工夫することで準備時間は2時間、片付けも1時間で済んだとすると、営業担当者の時間のロスを取り戻すと同時に、人件費もアルバイト代を5時間分削減することができます。

 この考え方は、日々の業務活動を効率化することで労働時間が短縮され、結果として残業が減り人件費が削減できるということにも繋がるものです。

 単に費用を削減することを前提に「使えるお金の額を減らす」のではなく、同じお金をかけても最終的には利益に繋がるものはその使い方を考えることも必要です。コストを削減するための方法論として「効率化」は重要な要素になるのです。


人件費削減の最終的な意味合い

 人件費に関しては、会社経営上の「糧」である「人材」をどのように考えるかがポイントになります。マンパワー=人的資源として捉えることができますが、以下2つの要素を考慮した経営を行うことがポイントとなります。

 ・利益を生み出す最も重要な会社の資源
 ・相乗効果が最も大きい会社の資源

 人的資源の最適な有効活用を実現するには相乗効果を考えることが必要であって「労務管理」「人事管理=業績評価」「労使関係管理」という面を考慮しなければなりません。

 会社が職員へ支払う給与は「労働に対する対価」として支払われるものですが、その価値が会社と職員双方にとって同じ価値であれば問題ないのですが、齟齬があると問題が顕在化します。

 会社は基本的に、商品やサービスを買ってもらい利益としますが、その商品やサービスを作るのは、会社にいる社員です。社員も人ですから、調子が良かったり、やる気が上がれば商品やサービスの質なども上がりますし生産性も高まりますが、逆に、調子が悪かったり、やる気が下がってしまえば、商品やサービスの質が落ちてしまい、そのため購入者が減り、利益が減るということになります。

 このやる気を下げる原因が、人件費の削減や社員の解雇です。誰々の給与が下げられた、誰々が解雇されたとなれば自分も下げられる、解雇されるんじゃないかと思うことにより、不安のために、やる気が下がってしまうことで、生産性が下がるという悪循環に陥る可能性があります。

 一方で、職員が会社の待遇(給与や雇用条件等)に満足していれば、生産性も上がり利益は更に上がるという好循環になります。つまり、会社の職員に対する評価は会社の利益に対して相乗効果として働くのです。

 また、職員の能力を高めるための研修費ですが、これも重要です。例えば、ビジネスマナーをマスターして無い人がいれば、取引先や顧客からの問い合わせの電話が来た場合に、「電話応対がなっていない」と思われ会社の評判を落とすことになります。また、業務に必要な知識が無ければ、業務を行えないので、当然のように生産性が落ちてしまいますし、結果としてどちらの場合も利益が減ることになりかねないのです。

 つまり、単に経費の支出として表されるる「人件費」の金額の高い低いで判断するのではなく、「労務管理」や「人事管理=業績評価」という情報も総合的に評価できるようにすることが経営者としては重要なポイントになるでしょう。