金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例27「一時的外部要因による経営悪化の判定ポイント」


 金融検査マニュアル別冊の「事例27」に関しては、本業は順調に推移していたが、地域振興の一環として共同事業を立ち上げる際に出資した資金が外部環境要因によって実現することが困難となり回収不能となったため、当該処理費用により赤字決算に陥ったものです。しかし、本業については引き続き順調に推移しており特殊要因による一時的な赤字決算であり、且つ、既存の収益により当該案件資金として融資した借入金の返済も契約通り行うことができるため正常先と判断している事例です。

 中小企業の場合、大企業と比較すると自己資本が脆弱であることから、本件事例のように外的な要因により一時的に赤字に陥り、経営に重大な影響を与えることがあります。特に、株式投資や不動産投資等本業以外への投資の失敗による損失に関しては、本業の資金収支で簡単に処理する事が難しく、本業に対する影響度合いについてはきめ細かく検証するように求められています

 投資資金については、自己の内部留保で調達しているのであれば、損失処理によって一時的に赤字になっても債務超過に陥る事はありません。また、経営者の個人資産等を充当している場合も直接的に影響は軽微になります。しかし、バブル経済時のように本業以外への投資資金を金融機関等の借入金により調達している場合は、本業によるキャッシュフローで当該借入金の返済が可能か否か、本業の資金繰りに影響はないのか見極める必要があります。

 決算書を提出した際に、資産の内容について詳細を確認すると同時に、資産運用の原資は自己資金なのか他人資本(借入金や支払手形等)なのか聞かれることもあります。また、日頃からの取引関係の中で、本業以外への投資等の相談があった場合は、企業体力や個人等の資力、本業の業績見込み等総合的に判断し、体力以上の投資にならないように適切なアドバイスを行うことも金融機関の役目となっています。

 場合によっては他金融機関等から資金調達し投資を行ってしまっているケースもありますので、金融機関側では、決算書を申し受けた際に資産勘定が大きく変化している科目は無いか、反対勘定である負債科目が大きく変化していないか、金融機関取引状況表により借入金や預金残高に大きな変化は無いか確認するケースもあります。

 事例のように特殊要因による一時的な赤字決算であって繰越欠損が発生したとしても、本業が順調であり今後2〜3年以内に繰越欠損が解消され、借入金についても約定通りの返済が確実であれば「正常先」と判定することは可能です。しかし、今後の業績に関しては絶対ということはありませんので、赤字要因が本業へ及ぼす影響、不測の事態になった場合の余裕等総合的に判断するケースが一般的です。