金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例23「貸出条件緩和債権の卒業基準の判断ポイント」


 金融検査マニュアル別冊の「事例23」に関しては、債務者の業況が回復し赤字体質から脱却しているが、再建支援の為に実施した条件変更前の状態にはいたっておらず、債務超過の解消には時間を要する点を加味し要注意先と判断しています。但し、内部格付制度による格付結果が上位に遷移しており、且つ、保全状況を加味した実質的な貸出利回りが、上位のグループに変化した債務者に対する基準金利を上回っていることから「貸出条件緩和債権」には該当しないと判断している事例です。

 金融機関に示されている監督指針では「返済期限の延長を行った場合でも、条件緩和後の債務者に適用される金利が基準金利を適用しているか実質的に同率の利回りが確保されていれば「貸出条件緩和債権(元本返済猶予債権)」に該当しないこととなっているが、信用格付制度に基づくリスク管理体制を整備している場合、債務者の業況変化を的確に評価し、債務者の業況が回復した結果、信用格付結果が好転=上位のグループに変化していることが説明できるならば、その時点における適用金利が、当該債務者と同等のグループに適用する基準金利と実質的に同等の利回りが確保されているのであれば「貸出条件緩和債権」には該当しないと判断しても差し支えない。」とされています。

 上記の説明は、金融機関内部で貸出先を評価する基準を定めている場合、その基準毎に定められている貸出金利よりも「高いのか」「低いのか」により要件を判定するケースを示しているものです。

 この場合、実質的に同等の利回りが確保されているか否かを判断する際には、担保により保全されている割合や、信用保証協会等の優良保証による保証状態、更には、代表者等の個人資産の提供意思等により確認できる債権に対する保全状態を総合的に判断した上で検証することがポイントとなっています。

 また、本件事例は、債務者側からの「経営悪化にともなう期限延長の条件変更」依頼に対して、これまでの総合的な取引関係を考慮し応諾したもので、1年目にして業況も回復、キャッシュフローも改善してきたことから「信用格付」(=信用リスクの度合いに応じた基準)結果が好転し、上位に変わったものです。仮に、好転した債務者の状況に応じた基準金利と実質的に同等の利回りが確保されていない場合でも、合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画が策定され、実行されていると判断することができるため「貸出条件緩和債権」には該当しないものと判断しているのです。

 中小・小規模企業の場合、厳密な経営改善計画を策定する事は難しいため金融機関が主体的に改善の可能性を指導することが求められていますが、策定した計画通りに実行されているか否かは、定期的なモニタリングにより進捗状況を確認します。特に、赤字体質からの脱却状況と条件変更後の借入金の返済状況等は月単位での資金収支=キャッシュフローの過不足を確認することが求められますので、資金繰予定・実績表を効果的に活用することも検討しましょう。