金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例22「保全範囲内の元本返済猶予債権の評価ポイント」


 金融検査マニュアル別冊の「事例22」に関しては、債務者の業況は厳しく返済能力の低下は明らかで、短期間で回復基調になることは難しいが黒字化を織り込んだ収支計画を策定していることを勘案し債務者区分は要注意先として判断しています。しかし、貸出金は担保不動産の評価額と不足分は代表者の個人資産の提供意思を確認することができており貸出金の回収には懸念ないことから「貸出条件緩和債権(=元本返済猶予債権)」には該当しないと判断している事例です。

 中小・小規模企業の場合、会社資産よりも個人資産を増やすことに注力する経営者も多いことから、担保等で保全されるか否かに関しては、会社単体の保有資産だけではなく個人の保有資産の内容に関しても確認し総体的に評価する傾向があります。

 特に、業績が悪化し返済能力が低下した場合、信用リスク(=貸出したお金が返済されない危険性)が増加することから、保全面の強化を図らなければなりませんので、経営者や関係者の個人が保有する資産の提供を要請されるケースが多くなります。

 事例のように、会社の担保不動産の処分見込評価額と債権額の差=不足額については経営者個人の資産を提供するとの意思表示がされている場合、当該貸出金については最終的な回収に懸念はなく、信用リスクは極めて低いものと考えられます。よって、条件変更時の貸出金利の水準が金融機関の調達コスト(=資金を調達するコスト+経費コスト)を下回るような場合を除いて、当該貸出金については貸出条件緩和債権に該当しないものと考えることができます。

 また、黒字化を想定した収支計画に基づき条件変更をしている場合、当該収支計画の妥当性を検証した結果、合理的かつ実現可能性が高い経営改善計画の要件を満たしていれば、条件変更時の貸出金利が金融機関の調達コストを下回っていたとしても、貸出条件緩和債権に該当しないこととなります。

 経営者個人の保有資産に関しては、会社の借入金に対する個人保証を申し受けている場合、保証人資力を確認する意味からも個人の保有する資産や年間所得等の内容を聴取する必要があり、正確な情報の提供を求めることがあります。表面上、個人資産を多額に保有しているように見えても、他金融機関からの負債がある場合や、他の会社を経営していて経営者個人の資金で賄っている場合等、保有資産を超える負債を抱えているケースもあるためです。


参考:担保の種類と評価の考え方
担保等により保全措置が講じられているもので、優良担保の処分可能見込額については原則として保全フルカバーと見做す事ができます。
1) 優良担保
預金等(預金、積金、元本保証のある金銭の信託、満期返戻金のある保険・共済をいう。)、国債等の信用度の高い有価証券及び決済確実な商業手形等をいう。
2) 一般担保
優良担保以外の担保で客観的な処分可能性があるもの。例えば、不動産担保、工場財団担保等がこれに該当する。最近では、機械設備や商品等の動産や売掛金等の債権も担保として扱うケースがあります。
3) 担保評価及びその処分可能見込額の算出について
A.担保評価額…金融機関内の内部規定に基づき客観的・合理的な評価方法で算出する。
B.処分可能見込額… 上記A.で算出した評価額を踏まえ、債権保全という性格を十分考慮し、当該担保物件の処分により回収が確実と見込まれる額。