金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例18「元本返済猶予債権の評価ポイント(1)」


 金融検査マニュアル別冊の「事例18」に関しては、業績低迷により返済能力の低下が認められるため要注意先として管理しているが、貸出金に関しては短期資金を期限延長により書き換えているものの、返済原資も明確であり且つ返済の実績もあることから「貸出条件緩和債権」には該当しないと判断している事例です。

 銀行法施行規則第19条の2第1項第5号ロ(4)で「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取り決めを行った貸出金」を貸出条件緩和債権と規定しおり、監督官庁が示す指針では、貸出条件緩和債権に該当するものとして「当該債務者に関する他の貸出金利息、手数料、配当等の収益、担保・保証等による信用リスク等の増減、競争上の観点等の当該債務者に対する取引の総合的な採算を勘案して、当該貸出金に対して、基準金利(=当該債務者と同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利をいう)が適用される場合と実質的に同等の利回りが確保されていない債権」と定義されています。

 つまり、返済期限の延長が行われた場合であっても条件緩和後の債務者に対する貸出金利が、当該債務者と同等に評価される企業に適用される基準金利と同等の利回りが確保されていれば条件緩和債権に該当しないと判断することができるということです。

本件事例は、外部環境の悪化により、当初の返済原資である資産の処分が遅れている事、資産の価値は現在でも棄損していないことから返済原資に問題なく、環境回復まで期限を延長している取扱いです。業績低迷により3期連続赤字を計上しており、且つ今後業績が回復する見込みも薄いことから債務者区分としては「要注意先」として判断し管理していますが、貸出債権に関しては返済原資も明確であり問題ない事から分類債権(=回収に懸念の無い債権)には該当しないという扱いが「是」か「非」かが問題となります。

 監督指針の解釈からすると、「基準金利が適用される場合と同等の利回りを確保」できているか否かが焦点となります。つまり、債務者の返済能力低下という信用リスクの増大と担保や保証により減少される信用リスクを総合的に考えた採算性を考えることが重要となるのです。

 例えば、返済原資である銘木の現在価値が、当初予定していた価値の50%に棄損していたとすれば、当該回収不能見込み額を加味したコストを考慮する必要がありますが、事例のように返済原資である資産の価値の棄損が全くなければ回収に懸念はなく、債務者の信用リスクのみを考慮した基準金利(=金融機関の調達コスト+経費コスト+信用リスク)を下回っていなければ原則、条件緩和債権には該当しないものと見做されるのです。

 また、本件事例は、書替が長期間継続されている手形貸付ですが、債務者の経営支援の一環として期限を延長している訳ではなく、返済原資が明確な在庫資金として「正常な運転資金」として捉えることができるため、この点からも「条件緩和債権」には該当しないものと考えられている事例です。