金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例15「支援意思と再建可能性の評価方法」


 金融検査マニュアル別冊の「事例15」に関しては、業績不振・財テク失敗により実質大幅債務超過、返済遅延の状態であるが、長年の取引とメイン銀行という立場から支援することを前提に、貸出金の回収の可能性および本業である業績の回復の可能性、保有する個人資産の状況等総合的に評価し「要注意先(要管理先)」と判断している事例です。

 監督官庁の指導指針では、中小小規模の会社の場合長年取引のあるメイン銀行による支援が無ければ再建することが難しいことから、業績が悪化する兆候が現れた段階で、金融機関側が主体的に改善支援策を検討、債務者(経営者)と一緒に考えることが重要とされています。特に、経営者との信頼関係を築いてあることが大前提であり、日頃の訪問活動や営業活動における対応が鍵となることから、日頃から担当者のスキル向上を図っています。

 本件事例については、投資により失敗した株式を全て担保として徴求しており、株価が好転した銘柄について徐々に処分し、元本返済を猶予している貸出金の回収を図ることを前提としています。企業経営者の中には「担保を十分提供しているのだから回収には問題はないだろう」と判断する方もいますが、担保ありきの考えは誤りですので注意しなければなりません。

 本来、金融機関が債務者を最終評価するには、貸出した債権の回収の危険性と価値毀損の可能性を客観的に判断し貸出した資金が確実に返済できるか否かを、当該企業が持っている「人・物・金」という定性的な情報と、取引履歴に代表される動態的な取引情報を総合的に判定しています。つまり、「債務者との高密度なコミュニケーションを通じて、その経営実態を適切に把握する」とするリレーションシップバンキング機能強化の基本定義を実践することで可能となる内容ですが、将来の本業による収支予測も加味した上で当該企業からの回収の可能性を判断するのです。

 しかしながら、数十年来の取引がある、当該金融機関をメイン銀行として利用してくれている、金利は支払っているし貸出金の返済見込みも立っている、という事のみで「金融機関として主体的に経営支援」するという判断は行いません。

 債権回収の危険性を正しく判定するために、企業が今後業績を回復し中長期的に経営を行える見込みがあるのか否かの見極めを前提にすることがポイントとなりますので「実現可能な再建計画」を立案し説明できることが最も重要なのです。