金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例10「業種別特性の評価方法」


 金融検査マニュアル別冊の「事例10」に関しては、ホテル・旅館業という業種特性から、多額の設備資金を必要とし、回収までには長期間を要するとともに短期的な修繕・改善資金も必要となり負債比率が高くなります。業績が低迷すると金利負担や減価償却費負担により赤字は拡大するが、償却前利益や長期的な収支計画の検証により返済財源には問題ないことから「正常先」と判断している事例です。

 企業を評価する際には、業種別特性を理解する必要がありますが、ホテル・旅館業の業種特性は以下の5点に集約することが出来ます。

  1. 多額の先行投資を必要とする
  2. 立地・施設規模・施設構成による制約が大きい
  3. 運営は人的サービスが主体となる
  4. 季節変動・景気動向の影響を最も早く受ける
  5. 提供するサービス・機会の在庫ができない

 また、業界特性から企業実態を評価する上で留意するポイントは次の3点となっています。

  1. 消費者ニーズの見極めとお客様満足度経営の実践
  2. マーケティングマネージメント
  3. 長期修繕計画の有無

 ホテル・旅館業の場合、装置産業が故に業績が低迷したからといって簡単に営業方法や営業拠点を変えることはできません。一方で設備の内容を充実させ、且つ、陳腐化させないためには初期投資もさることながら継続的な追加投資も必要となり、収支計画を綿密に策定する必要があります

 減価償却の実施方法によっては営業開始当初の負担が大きく(〜定率法)赤字基調となるケースが大半ですので、長期的な見地から収支計画を検証することとなります。

 金融機関では、特に収支計画の基となる「収入」の見込みを重要視しますので、設備やサービス面が消費者の要望にマッチしているのか否か、更には価格設定も含めた営業活動全般のマネジメント体制ができているか否かを検証することとなります。地理的、物理的にハンデを抱えていても営業活動面で補う事は十分可能なため、会社の経営方針を確認するなど、実態把握を十分におこなうことが重要とされています。

 また、ホテル・旅館業に限らず、長期的観点から業況を把握する必要がある業種については、厳格な売上見込みによる収支計画において借主自身で返済原資を確保できているか、減価償却や金利負担の要因を考慮した収支水準で中長期的に返済が可能か否か、また、約定どおりの返済が可能であるか否かによって、最終的な債務者区分を判定することが求められていますので、業種特性を理解した上で、自社の置かれている環境を加味した経営方針や営業活動方針を具体的に説明できることが必要となります。