金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例9「代表者個人の信用力と資質の評価方法」


 金融検査マニュアル別冊の「事例9」に関しては、代表者の健康状態の悪化により業績が悪化、延滞が発生し依然業況が厳しい状態にあるも、代表者の健康も回復し業務復帰により受注も増加、また、後継者である長男についても業界内での評判も良く、今後は業績も回復し財務内容の改善の兆しがあり借入金の返済も続けていることから「要注意先」と判断している事例です。

 中小・小規模企業の場合、業績は代表者の資質に大きく依存する事が多く、健康状態の悪化により業務を続ける事が出来なくなると経営に重大な影響を与えることがあります。

 経営者としての手腕や才能に恵まれ、決断力があったとしても、病気しがちな経営者であれば、厳しい経営者の職務を遂行することは難しくなります。金融機関としては、経営者の健康は企業経営にとって絶対に必要な最低限の条件とみていますので、日頃から健康に気を使う状況になっているか確認することも重要視しています。

 ケースバイケースですが、健康に留意した生活を送っているか、健康診断は定期的に受けているか等、日頃の面談時の会話の中で情報を確認することもありますので気をつけておくことも必要です。

 また、事例のように、長男が後を継ぐ意思を持って経営に係っている場合、後継者として新鮮な感覚で企業を成長させる為の新たな考え方を真剣に考えていても、経営者が自分の過去の経験や能力を過信し、後継者を育てる態度をしていなければ、後継者としての責務を果たす事が難しくなる場合もあります。

 金融機関は、経営者が家族に対して自分が築いてきた企業を引き継ぐ意思があるのか否か、明確な方針を確かめておくことを重要な要素として捉えていますので、後継者対策の基本的な考え方は常に説明できるようにしておくことも重要です。

 金融機関の担当者は、代表者の信用力や資質に関しては日頃の面談の中で確認していますが、特に、1)地元における経営者の評判や業界団体における役職者なのか否か、更には、企業が成長するために必要となる、2)経営者が強固な意志と今後のあるべき方向性=明確なビジョンを持っているのか否か、3)役員、従業員がその経営理念を理解し、且つ協力して努力しているのか否か、4)経営者が強力なリーダーシップを持っているか否かに関しては訪問面談の際に確認し業務日誌等に記載しておくことも指導されていますので、日頃から意識して接することが大切です。