金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例2「多額の役員報酬による赤字」


 金融検査マニュアル別冊の「事例2」に関しては、中小零細企業の場合、経費にあたる費用の中で代表者に対する報酬や家族関係者に対する給与、家賃等への支払いが大部分を占め、結果として債務者の決算に大きな影響を与えることが多くなりますが、赤字や債務超過であっても、その原因が代表者や関係者への多額の資金流出であることが明確に説明でき、これまでの借入金に対する返済状態や返済財源を確認することができれば、要注意先以下の債務者区分ではなく「正常先」と判断している事例です。

 中小・小規模企業の場合、大・中堅企業と違って会社と個人の資金の流れを明確に切り分けることが難しいケースもあります。特に、税金の支払いを考慮しながら個人の資産を増やすことを目的とする場合、多額の資金が個人に流出していることが多いため、金融機関ではその実態を正確に把握することを重要視します。

 企業単体では不良であっても、個人資産を加味すると優良となる場合もあります。事例のケースも役員報酬を一般的な金額とすれば赤字ではなくなり、且つ個人資産を加味すると債務超過にはならないと説明できる点がポイントです。

 企業から提出される決算書の経費明細や配当・役員報酬明細の内容を確認することが求められています。また、確認した結果多額の資金が流出している場合は、当該経営者は確定申告を行っているものと想定されますので、確定申告書の提出を求めることもあります。確定申告書に関しては、給与所得の他に不動産収入がある場合等は必ず申告しなければなりませんので、他の収入があるか確認する上でも重要となっています。

 また、経営者の申告書を確認する場合、収入のみならず、他の保有資産や借入金、保証債務の有無なども調査します。借入金の返済が代表者個人の資産により賄われている場合、今後も正常に返済が行われるか否か見極める必要がありますので、多額の報酬が代表者に支払われていたとしても、保有する資産の内容、更には負債残高、他保証債務の額等を総合的に考え、約定返済に懸念がある場合は「正常先」として判断することは難しく、要注意先として管理を強化することが想定されます。

 代表者の保有資産情報に基づき、不動産等がある場合は登記簿謄本により他金融機関やローン取扱機関などの抵当権の設定状況も確認しますが、経営者によっては個人の資産内容を金融機関に対して全て開示することを快く思わない方も多いため、日頃の取引関係の上での信頼関係を築くと同時に、経営支援する為に必要な情報に関しては日々確認することを心掛けるよう努力しています。

 借主である事業者側も、個人資産の状態を全て開示することに抵抗があるとしても、取引銀行と良好な関係を維持・継続することを望む場合は、最低限の情報開示は行なうことが必要でしょう