金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例1.企業の実態的な財務内容の評価方法


 中小小規模企業の場合、提出された決算書数値だけをみると業績回復が難しいと判断せざるを得ないケースでも、経営者の資産等を加味すると貸出金の返済には何ら支障がないこともあります。

 金融検査マニュアル別冊の「事例1」のケースでは以下のような考え方をします。

金融検査マニュアル別冊の「事例1」に関しては、提出された財務数値からのみ判断すると、連続赤字であり且つ債務超過であることから「要注意先以下の債務者区分」の判定をしなければなりませんが、代表者が会社に対して資金を貸し付ける事で事業を継続、且つ既存の借入金についても延滞することなく約定どおり返済していること、また代表者からの借入金を実質的な資本として見なすと債務超過ではない事から「正常先」として判断しランクアップしている事例です。

 中小小規模企業の場合、会社単体では毎期赤字を計上、且つ内部留保も殆ど無く自己資本が脆弱に見えるケースが多く見受けられます。

 このような場合、事業会社として資産を蓄えるというよりも個人としての資産を蓄えている事が多く、代表者や家族の資産が多額になっているケースや、代表者からの資金支援により事業を継続するケース等が多くあります。

 金融検査マニュアルでは、会社単体の財務内容を見極めることも重要ですが、代表者や家族が保有している資産の内容を正確に調査し、個人資産も加味した実質的な財務内容により判断することで企業実態を評価するように指導されています。

 金融機関では、日頃の面談時から以下の点について情報収集する事を心がけています。

  1. 経営者の保有資産内容(担保等の提供状況も含む)
  2. 経営者の負債内容
  3. 経営者の外部機関への保証債務の有無
  4. 家族の保有資産内容
  5. 株主構成(家族中心なのか、役職員中心なのか、第三者が中心なのか)

 特に企業の実態を把握するにはストック面である資産負債状況に関して、経営者個人の資産負債を加味した実質的な財務数値により判断する事が求められています。

 本事例のように経営者からの資金支援を「代表者借入金」として決算書に計上している場合、代表者借入金の真の資金使途を確認し、当該資金が事業継続のための実質的な営業活動資金であり、同時に社長個人としては会社に返金を求めない事が確認できる場合は、当該借入金を自己資本勘定として判断して安全性を評価する事になります。ただし、この場合、経営者から事業を継続し経営改善に向け努力するという意思と、当該資金に関して個人資産へ振り返る事は無いという意思を面談の際に確認し、何らかの記録を残しておくことも必要と言われているのです。

 個人の資産等全てを取引金融機関に開示するという点に関しては、躊躇する中小企業経営者も多いのですが、業況が低迷した時に支えてもらえる信頼関係を築く上では、ある程度の情報開示は必要であると考える事も必要です。