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継続監査期間の強制開示がもたらすもの
(16/06/13)

 何十年もの間、同じ監査法人による会計監査を受け続けている上場企業は少なくない。むしろ監査人を交替する上場企業の方が珍しく、監査人の交替をリリースした上場企業は、投資家から「会計処理を巡って監査人と見解の相違があったのではないか」との疑念を抱かれるほどだ。

 企業が監査人を固定化するのには理由がある。それは、企業のビジネスモデルや内部統制を知り尽くした監査人が継続して会計監査を担うことで、監査が効率よく行われるというメリットがあるということだ。その結果、上場企業にとっては監査人への説明に費やされる時間が少なくて済むし、監査報酬も抑えることができる。だからこそ、単年度契約である監査契約が半永久的に更新され続け、監査人が変わらないのが常態化することになる。もっともこのような監査人の固定化によるメリットは、株主にとっては実感を伴うほどのメリットとは言えない。むしろ監査継続期間が長期化するほど、株主は“なれ合い監査”への懸念を深めることになる。

 この懸念を解消させるための制度改正案が浮上している。具体的には上場企業に対して有価証券報告書で「企業が同一の監査人による監査を受けてきた期間」を開示させるというもの。本改正案が初めて示されたのは、会計監査の在り方に関する懇談会であった(2016年3月15日のニュース「会計監査の在り方に関する懇談会が提言を公表」を参照)。さらに、安倍政権が今後の施策の方向性を示すものとして公表を予定している「日本再興戦略2016」のたたき台である「日本再興戦略2016」(素案)第二「具体的施策」(第27回産業競争力会議で配布。こちらの149ページを参照)にも盛り込まれたことで、改正が実現する可能性が極めて高くなった。

 改正案の趣旨は「監査人の選解任に係る株主の判断が適切に行われるよう、会計監査に関する株主等への情報提供を充実させる」点にある。この開示により、「同一の監査人により監査を受けてきた期間が長い企業」イコール「監査人と癒着している企業」という見方をする株主が出てくるかもしれない。株主から「なぜ監査人を交替しないのか」といった質問を受ける可能性に備えて、監査人(会計監査人)を選任する権限を有する監査役会・監査等委員会としても、監査期間の長さが妥当かどうか議論しておく必要がある。

 監査人の交替は「ガバナンスの強化」「新しい目で監査を行う」といった理由で行われることから、「大監査法人→別の大監査法人」あるいは「中小の監査法人→大監査法人」の交替が多数を占めるものと思われる。割を食うのは中小の監査法人であり、歴史がある中小監査法人ほど草刈り場になる可能性が高い(継続監査期間が長いため)。「企業が同一の監査人により監査を受けてきた期間の開示」は、上場会社に監査人の交替を促すだけでなく、伝統を有する中小の監査法人に合併を促す契機にもなりそうだ。


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