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マイナス金利で退職給付債務の割引率はどうなる?
(16/03/24)

 日本銀行がマイナス金利の導入を決定し、2月16日から金融機関が保有する日本銀行当座預金のうち、一定の部分に0.1%のマイナス金利が適用されている。これを受け、国債の利回り等でもマイナス金利が見受けられている。

 3月期の決算期末が迫るなか、会計上問題が生じているのは退職給付債務の計算における割引率の取扱いだ。退職給付会計基準では、「退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定する」(20項)とした上で、「割引率の基礎とする安全性の高い債券の利回りとは、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回りをいう」((注6))。とされている。この点、国債の利回りを基礎として割引率を決定している場合で、国債の利回りがマイナスとなっているケースにおいて、割引率をマイナスとなった利回りのまま適用するか、あるいはゼロとして適用するのかは明らかではない。このため、企業会計基準委員会(ASBJ)では急遽、3月9日の同委員会においてこの問題について検討を行っている。

 マイナスの利回りをそのまま適用する論拠としては、(1)平成20年の改正で、これまでの一定期間の利回りの変動を考慮して割引率を算定する取扱いを削除し、期末における市場利回りを基礎として決定される割引率を用いることとしており、その趣旨を踏まえると、マイナスであっても期末における利回りをそのまま用いるべき、(2)割引率に国債の利回りを用いる場合、当該割引率は基本的には貨幣の時間価値を反映するものと考えられ、プラスの利回りとマイナスの利回りで区別する理由がない―ことなどが挙げられている。

 一方、ゼロを下限とした利回りを用いる根拠としては、(1)年金資産の運用において、運用する金融資産の利回りがマイナスになった場合、現金を保有し続けるか、利回りがプラスの他の金融資産で運用する可能性がある、(2)システム上、マイナスの利回りを基礎とする割引率を用いて退職給付債務を計算するように設計されていない可能性がある―ことなどが挙げられている。

 企業会計基準委員会は、マイナスの利回りを適用する方が現行の退職給付会計基準に関する過去の検討における趣旨と整合的であるとしつつも、同委員会の見解として公表するには相応の審議が必要であるとしている。このため、平成28年3月期決算においては、割引率として用いる利回りについて、マイナスとなっている利回りをそのまま適用する方法と、ゼロを下限とする方法のいずれを用いても現時点では妨げられないとしている。



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