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“監査法人のガバナンス・コード”導入に向け
議論がスタート
(15/12/28)

 今年(2015年)から上場会社にはコーポレートガバナンス・コードが適用されているが、それの監査法人版が導入されるかもしれない。近年のIPO(株式新規公開)を巡る会計上の問題や会計不正事案などを契機として、会計監査の信頼性確保のために金融庁に設置された「会計監査の在り方に関する懇談会」で明らかになった。

 「監査法人のガバナンス・コード」はすでにイギリスやオランダでは導入されている。監査制度の品質向上のため、日本でも導入が議論が検討されることになった。まず、10月6日に開催された第1回の懇談会で、会議の最後に事務局より「監査法人のローテーションの導入だけで解決する問題なのかという疑問は確かにある。ローテーションだけでは不十分ということであれば、監査法人のガバナンス・コードとセットで取り組むべきなのかもしれないし、ローテーションを導入することができないのであれば、ガバナンス・コードについてはさらに真剣に取り組んでいかなければならないのかもしれない。必ずしも海外と同じ制度である必要はないと思うが、問題の所在はどこか、何が大事なのかを踏まえて、実効性を持ったコードの作成についても、次回以降、検討いただきたい」と提案されたのがきっかけ。11月20日に開催された第2回の懇談会では、次のように「監査法人のガバナンス・コード」の導入に賛成する意見が相次いだ模様。

「今の日本の監査環境、200を越える監査法人が乱立している状態は、やはりマーケットの規模からしても適切ではない。おそらく上場会社1社程度しか担当していない監査法人もかなりある。そうした中では質の高い監査は担保できない。当然、検査当局も中小の監査法人まで手が回らないこととなろう。
 したがって、日本の監査制度の品質を高め、国際競争力を持たせるためにも、良い意味で監査法人が淘汰されることが必要であると思う。そのためには、監査法人のガバナンス・コード等によって、上場会社を監査することのできる監査法人の実態を踏まえた適切なハードルというようなものを、第三者が納得できる形で設けるという流れは、当然あって然るべきではないかという気がしている。」

「日本の監査制度の品質を高め、国際競争力を持たせるためにも、良い意味で監査法人が淘汰されることが必要」

「イギリスやオランダの例を見ると、プロフェッションである会計士がこの程度のことを言われなければ分からないのかと驚くが、実益は不透明でも実害はなさそうだから導入するならそれでもよいと思う」

「監査法人のガバナンス・コードにおいても、こうやれといったような押付け型ではなく、監査法人が自ら考え、実践し、ブラッシュアップできるようなソフト・ロー型にすべきである」

「監査法人のガバナンス・コードは、イギリスやオランダと同様、一定規模以上の監査法人に対象が限られるとしても、1つの施策として効果があるのではないか」

 また、本懇談会では監査法人のローテーションについて議論も交わされている。監査法人のローテーションとは、監査法人とクライアントとの癒着を防ぐため一定年数を経過した場合に監査法人を変更するという制度。わが国の制度では監査法人の中の業務執行社員のローテーションは実施されているが、監査法人自体の変更は義務化されてはいない。2004年の会計士法改正により監査法人内での業務執行社員のローテーションが制度化されたときに、監査法人業界の反対で監査法人自体のローテーションは棚上げになったという経緯がある。

 本懇談会のメンバーの中には「監査法人のローテーションの問題をどう考えるかについては、以前検討されたときから10年経っており、監査法人制度も来年50周年を迎える中、1つの監査法人が数十年にわたって同じ企業の監査を行うことが適切なのかという視点があるのではないか」

といった問題意識を持つメンバーがいる一方で、別のメンバーからは次のような否定的な意見も出ている。

「監査法人のローテーションは非常にコストがかかる。国によってはディスカウント競争になるなど、監査の品質の低下に繋がっているのではないかという話もある。実際に監査人は交代するので、非常に監査工数も増えるし、そういう意味ではコストがかかる。そういう状況を踏まえて必要性を検討すべきではないか。」

「現在、監査法人の中でローテーションが義務付けられているのは、監査報告書に署名をする業務執行社員であるところ、その業務執行社員に病気等の不測の事態があってはいけないので、複数、多くは3名ぐらいでサインをすることがほとんどである。クライアントとの関係や、監査の継続性、知識の蓄積などを考えると、全員が交代するというのは避けたいということで、長期的に、5年、7年の期間を見据えて、次は誰にするか、その次は誰にするかということも、計画を立てながら進めている。したがって、チーム全体が法人の中で変わるということはまずやらないし、なかなか実務的にもできないと思う。」

「他に方法がないのであれば仕方ないが、監査法人のローテーションに代表されるような画一的な制度は非常に危険だと思う。規制する側を含めて正しいやり方が事前にわからない以上、市場で多少とも異なるシステムが同時に使われているときに比べて、すべてが同じように画一化されている場合は、選択が間違っていたときの影響が大きく、対応は難しくなる。不必要な画一化が生じないような方法で、株主に情報とインセンティブを与えることこそが必要である。」

 このように本懇談会では、“監査法人のガバナンス・コード”は概ね好意的にとらえられているのに対し、“監査法人のローテーション”には、懐疑的な意見が相次いでいる。監査の品質向上は待ったなしの状況と言えるだけに、その策を巡る本懇談会での議論の動向が注目される。



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