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税効果会計に適用する税率、
「公布日基準」から「成立日基準」へ
(15/10/22)

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、日本公認会計士協会(JICPA)の監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する実務上の取扱い」を移管し、「税効果会計適用指針」の開発を行っている。現在、公開草案を経て、最終基準化に向けた審議が行われており、2015年中に最終基準化され、2016年3月期からの早期適用が認められる予定だ。そして、この議論と並行して、「税効果会計に適用する税率」の取扱いが議論されている。

 「税効果会計に適用する税率」については、JICPAの会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下、個別税効果実務指針)の第18号で、「税効果会計上で適用する税率は決算日現在における税法規定に基づく税率による。従って、改正税法が当該決算日までに公布されており、将来の適用税率が確定している場合は、改正後の税率を適用する。」と規定されている。つまり、決算日時点で既に公布されている税率を用いるということだ。

 この公布日というのは、実務的には、改正法人税法が官報に掲載された日を指し示す。所以、3月決算会社の場合、「公布日基準」によれば、税制改正に法人税率の改正が見込まれる場合に、3月31日までに法人税法の改正が官報に掲載されれば、改正税率を用いた法人実効税率に基づき税効果の計算を行う。一方で、3月31日までに法人税法の改正が官報に掲載されなければ、改正される前の税率を用いた法人実効税率に基づき税効果の計算を行うことになる。

 改正法人税法の官報掲載日に関するASBJの調査によれば、過去6年間のうち、3月31日の官報に掲載された年が4回、3月30日の官報に掲載された年が1回ある。経理担当者からすれば、「もし何か間違いがあって、公布日が年度を越したらどうしよう…」と考えるだろう。すると、無駄になるとは分かっていても、2種類の税率に基づいた2種類の数字を用意することになる。仮に、何かの手違いで3月31日までに官報に掲載されなければ、事前に税制改正を見込んだ税率で予算を組み、業績予想を開示していた場合には、社内や株主に対して説明を要することとなる。企業の経理担当者からすればたまったものではないだろう。

 こうした背景から、ASBJで「公布日基準」の見直し作業が行われており、JICPAの個別税効果実務指針を引き継ぐ際に、税効果会計に用いる法人税率の基準日を、「公布日」から国会で法人税法が改正された「成立日」に改訂する予定だ。税効果会計に用いる法人税率の基準日の前倒しにより、経理担当者の年度末の悩みは、少しは解消されるだろう。ASBJでは2016年3月期から適用できるよう急ピッチで審議が進められている。

 これに加え、住民税(法人税割)と事業税(所得割)に関する標準税率として適用する税率についても明確化される予定。国税(法人税)と同様に、税効果会計に用いる標準税率の基準日を、国会で地方税法が改正された「成立日」と明確化する予定だ。一方で、超過税率については、条例の成立を待たざるを得ない。仮に、決算日現在で改正地方税法が成立しているが、改正条例が成立していない場合には、例えば、「改正地方税法で規定されている標準税率に、改正前の条例に基づく超過税率による税率が改正前の地方税法の標準税率を超える差分を加える方法」が考えられるとしている。



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