平成26年3月末決算より有価証券報告書の単体財務諸表が簡素化される(「連結財務諸表作成会社の単体簡素化を図る改正財規等が施行」を参照)が、気になるのは、このことと「決算早期化」の関係だ。 まずはっきりしておきたいのは、有価証券報告書と決算短信は別物という点。上場会社において「決算早期化」というと決算短信開示の早期化を指すが、元々、連結財務諸表作成会社の場合、決算短信では連結財務諸表の開示が求められており、単体財務諸表の開示は任意となっている。このため、決算短信が今回の単体財務諸表の簡素化の影響を受けることはほぼない。 それでは、会社法の招集通知の発送が早期化されるかというと、それもない。今回の有価証券報告書の単体財務諸表簡素化の改正は、金融商品取引法下の開示書類の改正であり、会社法下の開示書類である計算書類(*)には影響はないからだ。
要するに、今回の有価証券報告書の単体財務諸表簡素化の改正は、有価証券報告書の提出の早期化にだけ影響するものと言える。もっとも、平成21年12月末以降に終了する事業年度から、有価証券報告書の定時株主総会前提出が可能になっているとはいえ、実際のところ定時株主総会前提出を行っている企業は少なく、ほとんどの企業が、従来通り、「定時株主総会終了日の翌日」から「提出期限である事業年度経過後3か月」の間に有価証券報告書を提出している。3月決算企業の多くが6月下旬に株主総会を開催していることから、有価証券報告書の提出の早期化の影響はほとんどないといっても過言ではない。 ただ、今回の有価証券報告書の単体財務諸表簡素化の改正は、単に投資家への情報開示が後退しただけであり、上場会社側にとってまったく意味のない改正であったかというと、そうではない。有価証券報告書の単体財務諸表簡素化の改正により、作成が不要となった項目があるからだ。それは「開示項目の作成時間の短縮」を意味する。また、作成不要ということは監査不要ということでもあることから、同時に「監査時間の短縮」にも貢献する。こういった時間の短縮が、開示資料作成現場に時間的ゆとりをもたらし、開示資料の完成度を高め、訂正報告書の提出という事態の事前回避が可能になると言えよう。 なお、有価証券報告書の単体財務諸表簡素化の改正により、貸借対照表や損益計算書の科目の独立掲示の基準が簡素化されているが、これは括り方が変わっただけであり、作成自体が不要となったわけではない以上、「作成時間の短縮」や「監査時間の短縮」にはまったく貢献しないことには注意したい。 そう考えると、今回の簡素化を受けて、いたずらに「作成時間」を短縮するスケジュールや人員配置を組まない方が望ましいと言える。 また、【主な資産及び負債の内容】のように、“作成不要”ではなく、連結財務諸表作成会社の場合、「省略することができる」となっている改正もある。省略を選択してもいいし、投資家の情報開示を重視して、あえて省略を選択せずに開示を続けるということも認められている。判断は各社に委ねられているわけだ。さらに、そもそも簡素化の特例の適用自体を選択しないということも可能とされている。自社の開示ポリシーに基づき、それぞれが判断することになる。くれぐれも投資家への情報開示の後退をどう補うのかという発想も忘れないようにしたい。 |
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