企業会計基準24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、過年度遡及基準)の適用により有価証券報告書の前期の(連結)財務諸表は比較情報という位置づけになった。この比較情報という概念は、ややわかりづらいものであるため、正しく理解しておきたい。 従来は当期の有価証券報告書に財務諸表を当期・前期2期分記載し、監査報告書を当期・前期2期分に添付していた。これが、過年度遡及基準の適用により、金融商品取引法上、前期の(連結)財務諸表は、当期の(連結)財務諸表の一部を構成するものとして、当期の財務数値に対応する前期の財務数値を比較情報として位置づけられることとなった。 この「比較情報」という考え方がなじみのないものであることから、「比較情報といっても、前期の数字を転記しているだけなので、去年までとどう違うの?」と疑問に思う経理担当者も多いのではないだろうか。それもそのはず。会計方針の変更、表示方法の変更、過去の誤謬の訂正をしない限り、比較情報の意味するところの実感がわかないからだ。 この点、企業会計審議会より平成22年3月26日に公表された「監査基準の改訂について」では、「比較情報としての前期の財務数値は、上述の新基準(*)にしたがって修正されたものではあるが、前期に提出された財務諸表自体を全体として修正したものではなく、当期の財務諸表に含まれる比較情報の当期の財務数値に対応する前期の数値を期間比較の観点から、必要な限りで修正・記載したものであると位置づけられる」と説明している(*は過年度遡及基準)。 すなわち、会計方針の変更により遡及修正をおこなった場合に、前期に提出された財務諸表自体を全体として修正したとは考えないということだ。あくまで「当期の財務諸表に含まれる比較情報の当期の財務数値に対応する前期の数値を期間比較の観点から、必要な限りで修正・記載したもの」(後述の対応数値方式)となる。表示の変更の際の組替えや過去の誤謬の訂正の際の修正再表示も同様となる。 それでは独立監査人の監査報告書において、当期と前期の両方について監査意見を述べるようになったのかというとそうではない。この点、比較情報をどのような枠組みとして制度設計するかという点と関連する。 すなわち、監査基準委員会報告書第63号「過年度の比較情報−対応数値と比較財務諸表」によると、対応数値方式(比較情報が、当年度の財務諸表に不可分の一部として含まれ、当年度に関する金額及びその他の開示(以下「当年度の数値」という)と関連付けて読まれることのみを意図しており、対応する金額と開示をどの程度詳細に表示するかは、主に、当年度の数値との関連性において決定されるものとして監査意見を表明する場合)であれば、監査意見は、対応数値を含む当年度の財務諸表全体に対して表明されるため、監査人は、対応数値については意見を表明しないことになる。 一方、比較財務諸表方式(当年度の財務諸表との比較のために、当年度の財務諸表と同程度の比較情報が含まれており、比較情報について監査が実施されている場合に、比較情報に対する監査意見が当年度の監査報告書に記載される場合)であれば、当該比較財務諸表に対する監査報告書は、表示されるそれぞれの年度の財務諸表を対象とすることとなる。 我が国では対応数値方式を採用したことから、当期の監査報告書は当期の財務諸表に対してのみ言及し、比較情報には明示的に言及しないこととなった。 そのため、金商法下の財務報告において、当期及び前期の財務諸表に対して監査証明を求めていた規定が改正され、当期の財務諸表のみを対象とすることとなり、前期の監査報告書の添付は不要となった。 |
Copyright(c) 2012, 日本IPO実務検定協会, All Rights Reserved. Copyright SEIKO EPSON CORPORATION 2012, All rights reserved. |