財務報告関連実務ニュース


マイナスの貸倒引当金繰入額とは?
(11/11/14)

 平成23年4月1日以後開始する事業年度より「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、過年度遡及会計基準)が適用されている。過年度遡及会計基準というと遡及修正に目がいきがちであるが、引当金戻入益の表示場所についても改正が行われている点は留意が必要だ。

 過年度遡及会計基準の55項では「我が国の従来の取扱いでは、企業会計原則注解(注12)において、過年度における引当金過不足修正額などを前期損益修正として特別損益に表示することとされている。本会計基準においては、引当額の過不足が計上時の見積り誤りに起因する場合には、過去の誤謬に該当するため、修正再表示を行うこととなる。一方、過去の財務諸表作成時において入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合には、当期中における状況の変化により会計上の見積りの変更を行ったときの差額、又は実績が確定したときの見積金額との差額は、その変更のあった期、又は実績が確定した期に、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識することとなる。」とされている。

 これを受け、日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」も本年3月29日に次のように改正された(赤字が改正箇所)。

繰入額と取崩額の相殺表示(125項)
当事業年度末における貸倒引当金のうち直接償却により債権額と相殺した後の不要となった残額があるときは、これを取り崩さなければならない。ただし、当該取崩額はこれを当期繰入額と相殺し、繰入額の方が多い場合にはその差額を繰入額算定の基礎となった対象債権の割合等合理的な按分基準によって販売費(対象債権が営業上の取引に基づく債権である場合)又は営業外費用(対象債権が営業外の取引に基づく債権である場合)に計上するものとする。また、取崩額の方が大きい場合には、その取崩差額を原則として特別利益に計上する。 当事業年度末における貸倒引当金のうち直接償却により債権額と相殺した後の不要となった残額があるときは、これを取り崩さなければならない。ただし、当該取崩額はこれを当期繰入額と相殺し、繰入額の方が多い場合にはその差額を繰入額算定の基礎となった対象債権の割合等合理的な按分基準によって営業費用(対象債権が営業上の取引に基づく債権である場合)又は営業外費用(対象債権が営業外の取引に基づく債権である場合)に計上するものとする。また、取崩額の方が大きい場合には、過年度遡及会計基準第55項に従って、原則として営業費用又は営業外費用から控除するか営業外収益として当該期間に認識する。

 この結果、取崩額の方が大きい場合で、営業費用又は営業外費用から控除する場合はマイナスの繰入額が計上されることとなる。営業費用には「売上原価」又は「販売費及び一般管理費」が該当するものの、金融業でなければ通常は「販売費及び一般管理費」に限定されよう。そうであれば、対象債権が営業上の取引に基づく債権である場合、損益計算書の「販売費及び一般管理費」にマイナスの繰入額が表示されることになる。仮に、販売費及び一般管理費として一括で掲記(あるいは販売費若しくは一般管理費として一括で掲記)する場合であっても、PL注記や計算書類附属明細書の販売費及び一般管理費の明細でマイナスの繰入額が表示されることとなる。違和感はぬぐえないものの、営業外収益として計上しない以上、結果としてマイナスの費用にならざるを得ない。

 ここで気になるのは、「原則として」という点。例外については明記されていないものの、東日本大震災関連の貸倒引当金繰入額のように当初繰入時には特別損失で計上していたような場合に、その戻入額についても特別利益にて表示するというケースが想定されよう。



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