目次 III-2


2 その他の所得税制関連の改正

【1】通勤手当の非課税限度額引上げ

 役員や使用人に支給する通勤手当や通勤定期券などは、一定の限度額まで非課税となっています。この非課税限度額が、新幹線を利用した地方から大都市圏への通勤など、近年における通勤手当の実態等を踏まえ、引き上げられます。

 通勤手当の非課税限度額が月額15万円(現行:10万円)に引き上げられます。

適用期日 上記の改正は、平成28年1月1日以後に受けるべき通勤手当について適用されます。


【2】設備投資等に関する所得税制の改正

(1) 建物付属設備及び構築物等の償却方法の見直し 法人税制と同様(I−1【1】参照)
(2) 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の延長 法人税制と同様(I−1【2】参照)
(3) 環境関連投資促進税制の見直しと延長 法人税制と同様(I−1【3】参照)
(4) 中小企業者等が生産性向上設備を取得した場合の固定資産税の課税標準2分の1軽減措置創設 法人税制と同様(I−1【4】参照)
(5) 生産性向上設備投資促進税制の終了 法人税制と同様(I−1【5】参照)
(6) 雇用促進税制の縮減・延長と特則措置の拡充 法人税制と同様(I−3参照)
(7) 企業年金等の掛金等の必要経費算入の対象範囲の拡充 法人税制と同様(I−7【3】参照)


【3】「債務処理計画に基づき資産を贈与した場合の課税の特例」期間延長等

 中小事業者の再生を支援する観点から、平成28年3月末までの間、再生企業の保証人となっている経営者が「債務処理計画」(注)に基づき、その再生企業に対して事業用資産の私財提供を行った場合には、譲渡益を非課税とする特例が措置されています。

 この特例の適用期限について、中小事業者の再生を引き続き支援する必要があることから、平成31年3月31日まで3年延長されます。ただし、適用対象となる内国法人は、中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律の施行の日(平成21年12月4日)から平成28年3月31日までの間に金融機関から受けた事業資金の貸付けに係る債務の弁償について、条件の変更を受けたものに限られるようになります。

(注)  一般に公表された債務処理を行うための手続に関する(中小企業再生支援協議会等の)準則に基づき策定された計画

本特例の創設(平成25年度改正)前から認められている制度(所法64)   平成25年度税制改正で認められた制度(本特例)(措法40の3の2)
(現 行)平成28年3月31日まで
→(改正案)平成31年3月31日まで
金融機関に直接私財提供
  再生企業に対して私財提供

「平成28年度税制改正について」(金融庁HP)を基に作成


【4】国外転出時課税制度・贈与等時課税制度に関する措置

 昨年度に導入された国外転出時課税制度ですが、現行法では、例えば相続によって非居住者に資産が移転する際に遺産分割協議が整わないまま法定相続分で譲渡所得課税がされ、後に法定相続分と異なる内容で分割協議が成立したときは、その非居住者には修正申告や更正の請求ができない等の不都合が生じます。今年度の税制改正では、このような点に関する見直し等が行われます。

(1)国外転出時課税制度の見直し

 国外転出時課税制度(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)及び贈与等時課税制度(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例)について、次の措置が講じられます。

(1)  相続の開始の日の属する年分の所得税について贈与等時課税制度の適用を受けた居住者につき次に掲げる事由が生じたことにより、非居住者に移転した有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約(以下「対象資産」といいます。)が当初申告と異なることとなった場合には、その居住者の相続人は、その事由が生じた日から4月以内に、その相続の開始の日の属する年分の所得税について、税額が増加する場合等には修正申告書を提出しなければならないこととされる一方で、税額が減少する場合等には更正の請求ができることとされます。
 未分割財産について民法の規定による相続分の割合に従って対象資産の移転があったものとして、贈与等時課税制度の適用があった後に、遺産分割が行われたこと。
 強制認知の判決の確定等により相続人に異動が生じたこと。
 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと。
 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があったこと。
 相続等により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと。
 条件付きの遺贈について、条件が成就したこと。
(2)  国外転出時課税制度又は贈与等時課税制度の適用がある場合の納税猶予に係る期限の満了に伴う納期限が、国外転出の日又は贈与の日若しくは相続の開始の日から5年4月を経過する日(現行:5年を経過する日)とされます。

(2)対象となる有価証券等の範囲の見直し

 対象となる有価証券等の範囲の見直しのほか、一定の措置が講じられます。

適用期日 上記(1)の改正は、平成28年1月1日以後に上記(1)イからへまでの事由が生じた場合について適用されます。
上記(2)の改正は、平成28年1月1日以後に納税猶予に係る期限の満了日が到来する場合について適用されます。

(3)上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の範囲の拡充

 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる上場株式等の譲渡の範囲に、国外転出時課税制度又は贈与等時課税制度の適用により行ったものとみなされた譲渡が加えられます。

 

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